研究課題/領域番号 |
24750051
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
志賀 拓也 筑波大学, 数理物質系, 助教 (00375411)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | シアン化物イオン架橋錯体 / 鉄イオン / 多座配位子 / 電気化学的性質 / 磁性 / ESIPT / プロトン移動 |
研究概要 |
本研究ではポリピリジン系多座配位子をもちいた架橋性ポリシアノ錯体の構築を検討した。ポリシアノ錯体は修飾可能な補助配位子を持っており、適切な補助配位子を導入することで様々な機能性を付与することができると考えられる。これまでの研究からポリピリジン系多座配位子の存在下、シアン化物イオンと鉄イオンを反応させることで、架橋性ポリシアノ錯体が得られることが予想される。そこで、本研究では、これまでに知られている補助配位子とは異なる配位子系で架橋性ポリシアノ錯体が構築可能かどうか検討を行った。まず、3つの3座配位サイトを有する2,4,6-tris-(2-pyrimidyl)-1,3,5-triazine (L1)を多座配位子としてもちいた場合には、架橋性トリシアノ錯体K[Fe(L1)(CN)3]が得られた。この架橋性錯体を構築素子としてもちい、Fe-Mn一次元鎖錯体およびFe-Fe混合原子価一次元錯体の合成に成功した。また、発光特性を持つ配位子2-(1H-Benzoimidazol-2-yl)-pyridin-3-ol (L2)をもちいてポリシアノ錯体の合成を検討した結果、pHに依存した酸化還元挙動および蛍光特性の変化を示すテトラシアノ鉄錯体K3[Fe(L2)(CN)4]が得られることが分かった。以上の結果から、2座および3座のキレートを有する多様な多座配位子をもちいることで、架橋性シアン化物イオンを有する構築素子が開発可能であることを明らかにした。今後、多核化したポリシアノ錯体構築素子や外場による明確なスイッチング機能をもつ構築素子を開発し、動的物性を示す機能性集積型金属錯体の開発を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、既存のポリシアノ錯体の合成方法を参考にし、ポリピリジン系多座配位子をもちいた架橋性多核錯体の構築を検討した。ポリシアノ錯体は修飾可能な有機分子である補助配位子を持っており、適切な補助配位子を導入することで様々な機能性を付与することができると考えられる。外場によるスイッチングや電子・電荷の揺らぎを持つ構築素子をもちいて集積型錯体を構築することができれば、特異な動的物性を示す分子性材料となることが期待される。 従来までの研究ではビピリジンやトリスピラゾリルボレートなどの補助配位子が用いられてきたが、空き配位座を埋めて、配位子場を調節するだけの機能しか持たなかった。本研究課題では3つの3座配位サイトを有する2,4,6-tris-(2-pyrimidyl)-1,3,5-triazine (L1)および、励起状態誘起プロトン移動(ESIPT)を示し特異な発光特性を持つ2座配位子2-(1H-Benzoimidazol-2-yl)-pyridin-3-ol (L2)を選択し、ポリシアノ錯体の合成を行った。どちらもポリシアノ錯体が得られ、特異な酸化還元特性を示すことが明らかとなった。 L1を配位子としてもつトリシアノ錯体K[Fe(L1)(CN)3]をもちいて、集積化を行ったところ、シアン化物イオン架橋Mn-Fe一次元鎖錯体および、Fe-Fe混合原子価一次元鎖錯体を得た。どちらも金属イオン間には一次元鎖内で弱い反強磁性的相互作用が働いていることが分かった。 また、特異な発光特性をもつL2を配位子としてもつテトラシアノ錯体K3[Fe(L2)(CN)4]は、pHに依存してプロトンが脱離し、Fe(II)/Fe(III)の酸化還元電位が変化することが分かった。鉄イオンの酸化還元状態の違いによって蛍光特性も変化することが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の研究では、3座の空きサイトを2つ持つ2,4,6-tris-(2-pyrimidyl)-1,3,5-triazine (L1)および特異な蛍光を示す2座配位子2-(1H-Benzoimidazol-2-yl)-pyridin-3-ol (L2)をもちいて、新規ポリシアノ錯体を得ることに成功した。今後は、この合成戦略を発展させ、多核の構築素子になりうるポリピリジン系配位子や、プロトン応答性や双安定な構造変化を示す配位子をもちいてポリピリジン系架橋錯体を合成し、有用な構築素子を開発する。さらに、合成できた構築素子をもちいて、金属イオンや配位受容性錯体と反応させることで、集積型金属錯体を合成し、その構造・磁気的性質および光学的性質について調べる。機能性集積型錯体の構築を行う上で、本研究では、特に光・温度および圧力に応答する双安定性化合物の構築を目指す。このような化合物が合成できれば、分子性のスイッチング素子やメモリ材料への展開が期待できる。本研究ではさらに、混合原子価状態を取りうる2核以上の多核構築素子をもちいて、集積化を行うことで、電荷揺らぎをもつ集積型金属錯体の構築を行う。電荷揺らぎに基づく自由度が集積型錯体の磁性や光学特性にどのように影響するのか検討することは、新しい多重物性分子材料の開発に有用であるといえる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の研究では、合成と物性測定を行うため、試薬・ガラス器具・寒剤等の消耗品費に重点を置いて研究費を計上した。合成では、嫌気下での操作が必要になると考えられるので、シュレンク管や真空ラインなどの特殊ガラス器具を購入する。試薬としては、有機配位子の前駆体である2-シアノピリミジンなどを購入する。合成には脱水・脱酸素溶媒をもちいる必要があるため、乾燥剤や蒸留装置等も購入する。物性測定では現有設備である単結晶X線構造解析装置やSQUID磁束計などをもちい、構造決定や磁気的性質の解明を行う。データ解析に必要な科学計算ソフトや端末も購入する。 研究成果は、錯体化学会討論会または日本化学会春季年会において成果発表するため、旅費を計上した。 平成24年度未使用額85,534円については、平成25年3月に開催された日本化学会春季年会の旅費として使用することを申請しており、処理されればほとんど未使用額はない。
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