研究概要 |
本研究は、申請者らが世界で初めて単離に成功したシラノン錯体の構造および性質について明らかにすることを目的としている。シラノンはケイ素-酸素間の分極が大きいために反応性が高く、ケイ素上に嵩高い置換基であるMes基(Mes = 2,4,6-Me3C6H2)が導入された錯体しか単離されていない。Mes基の替わりに立体的に小さいMe基を導入したCp’(OC)2W{=SiMe2(DMAP)}(SiMe3) (Cp’ = η5-C5H5 (Cp, 1), η5-C5Me5 (Cp*, 2), DMAP = 4-Me2NC5H5N)と酸素供与剤との反応を検討したところ、錯体1および2ともにシラノン錯体は得られなかった。その代わりに、錯体1からはシリレン配位子およびシリル基の両方がタングステンから脱離した[CpW(CO)3]2が、一方錯体2は4当量の酸素供与剤との反応が進行してCp*(O)2W(OSiMe2OSiMe3)が生成した。これらの結果は、ケイ素上の置換基の立体的な嵩高さがシラノン錯体の安定化に大きく寄与していることを示唆している。また、シラノン錯体の合成における酸素供与剤の効果について検討するため、N2Oを用いてMes基の置換した(シリル)(シリレン)タングステン錯体Cp*(OC)2W(=SiMes2)(SiMe3)およびDMAPとの反応を行ったところ、シラノン錯体は全く得られず、複雑な混合物を与えた。この結果は、他の研究者らが報告している、単離可能なシリレンとN2Oとの反応で単離可能なシラノンが得られる例と対照的である。
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