本研究では、申請者らが最近世界で初めて単離に成功したシラノン錯体の構造および性質について明らかにすることを目的として、分光学的手法を用いた構造解析、極性分子との反応、異なる遷移金属やルイス塩基を含むシラノン錯体の合成、新規シラノン錯体の合成法の開拓などを行った。 ルイス塩基共存下で、シリレン錯体の金属-ケイ素二重結合への酸素原子付加により、ルイス塩基によって安定化されたシラノン錯体が得られることを見出した。数種類のルイス塩基および遷移金属を用いて、シラノン錯体の合成に成功した。X線結晶構造解析によって、シラノンフラグメントのSi-O結合は単結合よりも短く、不飽和結合性があることが分かった。 シラノン錯体の新規合成法の開拓を目指して、Si-H結合を有するシロキシ錯体を合成し、ヒドリドの引き抜きによる陽イオン性シラノン錯体の合成を検討した。その結果、極性溶媒中では錯体の二電子酸化反応が進行して二価陽イオン性シロキシ錯体が得られた。一方、非極性溶媒中ではヒドリドの引き抜きが生じて一旦陽イオン性シラノン錯体が生成するものの、不安定で、試薬中のフッ化物イオンを引き抜いて、Si-F結合を有するシロキシ錯体が単離された。 シラノン錯体の反応性を検討した。アセトンとの反応を行ったがほとんど進行しなかった。一当量の水を加えたところ、ケイ素上にヒドロキシ基が、ケイ素上には錯体上の配位子であるシリル基が取り込まれたシロキシシラノールがほぼ選択的に得られた。これは、シラノンのケイ素-酸素二重結合への単純な付加生成物とは異なり、本研究で得られたシラノン錯体に特徴的な反応が進行して得られた生成物と考えられる。一方、メタノールとの反応では、メトキシ基とプロトンがそれぞれシラノンのケイ素および酸素に付加してシラノールが得られた。
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