研究課題/領域番号 |
24750058
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
松本 崇弘 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90570987)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 燃料電池 / 分子触媒 |
研究概要 |
ヒドロゲナーゼを範とする脱白金燃料電池用電極触媒の開発を目指し、今年度は、(1)水素と酸素を選択的に活性化するニッケル-ルテニウム触媒の開発、(2)水素活性化ニッケル-鉄触媒の開発、(3)燃料電池の作成と特性評価を行った。 (1)では、ニッケル-鉄ヒドロゲナーゼモデルであるニッケル-ルテニウム錯体を開発し、9個の支持配位子を系統的に変化させ、水素と酸素の選択的活性化の熱力学的、速度論的パラメータを決定した(Organometallics 2013, 32, 79)。このような熱力学的、速度論的研究を詳細かつ系統的に研究した例は本研究が初めてである。(2)では、ニッケルと鉄を用いたニッケル-鉄ヒドロゲナーゼモデル錯体で、世界で初めて水素の活性化に成功した(Science 2013, 339, 682)。活性化状態モデルであるニッケル-鉄ヒドリド錯体の構造をX 線構造解析により決定し、さらに、ヒドロゲナーゼの機能であるヒドリド還元と電子還元能を有していることを明らかにした。これはニッケル-鉄ヒドロゲナーゼの構造と機能を全て再現した完全モデル錯体である。(3)では、水素酸化還元酵素であるニッケル-鉄ヒドロゲナーゼの活性中心構造と機能をモデル化したニッケル-ルテニウム分子触媒を開発し、その分子触媒を電極触媒として用いた固体高分子形燃料電池を開発した(ChemCatChem, in press, DOI: 10.1002/cctc.201200595、化学と工業 2013, 66-2, 114)。開発した燃料電池の特性評価実験(電流-電圧曲線、ターフェルプロット、交流インピーダンス法)や電気化学的測定(Koutecky-Levichプロット、回転リングディスク電極法)を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」に記載したように、ヒドロゲナーゼを範とする脱白金燃料電池電極触媒の開発を目指し、今年度は、(1)水素と酸素を選択的に活性化するニッケル-ルテニウム触媒の開発(Organometallics 2013, 32, 79)、(2)水素活性化ニッケル-鉄触媒の開発(Science 2013, 339, 682、特許申請中)、(3)燃料電池の作成と特性評価(ChemCatChem, in press, DOI: 10.1002/cctc.201200595、化学と工業 2013, 66-2, 114)を行った。それぞれの結果を論文と特許にまとめることができたことから、当初の計画通り順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、(1)脱貴金属燃料電池用電極触媒の開発、(2)新規ニッケル-鉄ヒドロゲナーゼの探索・採取・単離とそれを用いた燃料電池用電極触媒の開発、(3)開発した電極触媒を用いた固体高分子形燃料電池の特性評価を行う。 (1)では、天然のニッケル-鉄ヒドロゲナーゼを範とし、脱貴金属ヒドロゲナーゼモデル錯体を開発する。前年度に開発した燃料電池用電極触媒には、貴金属であるルテニウムを用いているため、脱貴金属触媒の開発が必要である。水素活性化能を持つニッケル-鉄錯体、酸素還元能を持つニッケル-鉄錯体、酸素還元能を持つニッケル2核錯体を開発する。それぞれの触媒の反応性を検討し、燃料電池用電極触媒の作成を行う。(2)では、新規ニッケル-鉄ヒドロゲナーゼを探索・採取・単離して電極触媒として使用する。ヒドロゲナーゼは白金を凌ぐ水素活性化能を持つにも関わらず、酸素と熱に耐性を持たないことがよく知られており、燃料電池用電極触媒の調整時や燃料電池の作動条件において失活してしまう。しかし、自然界には未知の菌体が数多く存在し、酸素や熱に耐性を持つヒドロゲナーゼが存在する可能性がある。そのようなヒドロゲナーゼを探索・採取・単離し、燃料電池用電極触媒として使用する。これは固体高分子形燃料電池としては初めての例となる。(3)では、(1)と(2)で開発した電極触媒を用いた固体高分子形燃料電池の特性評価実験(電流-電圧曲線、ターフェルプロット、交流インピーダンス法)や電気化学的測定(Koutecky-Levichプロット、回転リングディスク電極法)を行う。分子触媒を使用する際に電極反応のメカニズムの解明も行う。また、ニッケル-鉄ヒドロゲナーゼを固体高分子形燃料電池に利用した例はこれまでにないため、その特性評価実験からは非常に有用な情報が得られる。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度に電気化学装置(ビー・エー・エス(株)バイポテンショスタット一式)を購入し、触媒の特性評価のための装置を揃えたので、次年度は、燃料電池測定用キット(ナフィオン膜(NR-212)、カーボンクロス、カーボンブラック等)、触媒合成のための試薬(1,2,3,4,5-ペンタメチルシクロペンタジエン等)、触媒合成のためのガラス器具(Aldrich Sure/StorTMフラスコ等)、反応メカニズム解明のための安定同位体試薬(18O2等)の購入を予定している。また、旅費の使用(成果報告のための学会発表等)も予定している。
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