研究課題/領域番号 |
24750059
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
越山 友美 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (30467279)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | リポソーム / 光反応 / 金属錯体 / 膜ドメイン / 光誘起電子移動反応 |
研究概要 |
本研究では、リン脂質が形成する膜空間に金属錯体や有機分子等の機能分子を膜の適切な部位に合理的に配置し、新たな光化学反応場の構築を進めている。当該年度は実施計画に従い、(1)膜空間への異種機能分子の部位特異的導入法の確立と、(2)光誘起電子移動反応の評価と最適化を重点的に推進した。当初の計画に加えて(3)膜空間を利用した触媒反応の制御にも成功しており、化学反応場としての膜空間の有用性を示す結果が得られた。以下に各項目の概要を示す。 (1)膜表面への機能分子導入のために、リン脂質やコレステロールの親水部に機能分子を化学修飾した機能性脂質ユニットの合成法を確立した。光誘起電子供与体であるZnポルフィリン錯体やRu(bpy)3錯体を修飾した機能性脂質ユニットを合成し、膜表面への組込みを確認した。リポソーム溶液への機能性脂質ユニットの添加による外表面のみへの電子供与体の固定化や、凍結融解法による内水相への電子受容体であるメチルビオロゲンの高効率な取り込み、さらに、飽和/不飽和リン脂質/コレステロール/機能性脂質ユニットの混合膜により電子供与体が集積化した膜ドメイン形成にも成功している。 (2)上記の手法を組合わせることで、膜内部と内水相に光誘起電子供与体と電子受容体を導入したリポソームを作成し、光誘起電子移動反応を行ったところ電子移動が進行し、長寿命電荷分離状態の生成が確認された。さらに、逆電子反応をより抑制可能な系として、外表面/膜内部/内水相に、光誘起電子供与体/仲介分子/電子受容体を導入したリポソームの作成を行い、電子移動反応の評価を進めている。 (3)酸素発生触媒であるRu錯体を導入した機能性脂質ユニットを用いて、膜表面へRu錯体を固定化したリポソームを作成した。反応制御では、錯体の膜表面からの固定位置、およびリン脂質の種類による表面電荷の制御により触媒活性の向上に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的である「膜空間を基盤とする光触媒システムの開発」に向けて、当該年度は「膜空間への異種機能分子の部位特異的導入法の確立」、および「光誘起電子移動反応の評価と最適化」に関して研究を推進し、特に部位特異的導入法では当該年度の研究実施計画以上の成果が得られたため、おおむね順調に研究は進展している。また、膜空間を利用した触媒反応の制御にも成功しており、次年度の研究実施計画である「光触媒反応の構築と最適化」において非常に重要となる錯体周りの空間設計指針についても既に知見が得られている。また、リポソーム空間での異種機能分子の配置、分布の評価では、共焦点レーザー顕微鏡による観察や、Spring-8の高輝度放射光ナノビームを用いたX線蛍光分析の元素分布マッピングにより、リポソーム1つあたりの金属分布の観察に成功しており、さらに多成分を導入したリポソームの構造評価に対応可能である。加えて、光触媒システムの反応機構解明で重要となる過渡吸収スペクトル測定の習得や、触媒反応評価に用いるガスクロマトグラフィーの準備を進めている。以上のように、期間内に研究を遂行するための成果は現時点で得られている。
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今後の研究の推進方策 |
光誘起電子移動反応と触媒反応(水素発生反応など)が連動した光触媒システムの構築を達成するために、次年度は研究実施計画に従い、(1)光誘起電子移動系リポソームへの触媒部位の導入と、(2)光触媒反応の評価と最適化を推進する。以下に各項目の概要を示す。 (1)光誘起電子移動系リポソームへの触媒部位の導入: 触媒部位の導入では、当該年度に確立した「機能性脂質ユニット」を用い、さらに単分子膜である逆ミセルからの段階的な脂質二重層膜形成によりリポソーム作成して、リポソーム内部表面への触媒の固定化を行う。 (2)光触媒反応の評価と最適化: 当該年度に得られた膜空間での触媒反応制御に関する知見から、機能分子間の反応を効率良く進行させるためには、膜空間で適切な分子配置が重要であることが明らかとなった。そこで、膜ドメイン構造形成などによる分子間距離の制御や、錯体の膜表面からの固定位置の制御に着目し、触媒反応に最適な分子配置を決定する。さらに、リン脂質の種類により錯体周りの電荷を変化させることで、錯体自体の酸化還元電位の制御も試みる。触媒反応評価は、ガスクロマトグラフィーを用いて水素定量を行う。仮に、1つのリポソーム内で光触媒反応が上手く進行しない場合は、光誘起電子移動リポソームと触媒反応リポソームの二種類のリポソームを混合し、リポソーム間での化学反応の連動を試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、光触媒部を導入したリポソームの合成と構造評価、及び光反応評価に重点を置く。研究費は、化合物合成に必要な試薬類と消耗品、測定に必要な器具と使用料、およびSPring-8での測定のための旅費が多くを占める。以下に詳細を示す。 設備備品は、光反応測定において反応系の温度制御が重要となるため、温度制御装置の購入を計画している。 消耗品には、リポソーム作成用のリン脂質、有機配位子や金属塩などの試薬、合成用のガラス器具、光反応用の光学フィルター、およびガスクロマトグラフィー測定用のカラムや器具の購入費用を計上した。リポソーム作成および機能性脂質ユニット合成用の試薬が高価なため、試薬代に多く配分する。 旅費として、研究成果の積極的な世界への発信と研究動向調査ために、国内学会(錯体化学討論会(沖縄)4泊5日×1回)と国際会議(第4回アジア錯体化学会議(韓国))の旅費と滞在費、およびナノビームX線蛍光分析測定のためのSPring-8 (相生) への往復旅費と滞在費(3泊4日×1回)を計上した。 その他の費目には、ガスクロマトグラフィーなどの分析装置の使用料と、研究成果を積極的に世界に発信するための学会誌投稿料を計上した。
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