研究課題/領域番号 |
24750065
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
鈴木 宏輔 群馬大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90580506)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | コンプトンプロファイル / コンプトン散乱法 / リチウムイオン二次電池 / 正極材料 / LiMn2O4 |
研究概要 |
平成24年度は、本研究目的の一つである、Liイオン濃度の変化に伴う蓄電池材料内の電子構造を決定するべく研究を行った。コンプトン散乱法をLi組成の異なる三つのLixMn2O4(x=0.496, 1.079, 1.233)に適用し、実験より得られたコンプトンプロファイルJ(pz)の差分を、第一原理のKKR-CPAバンド計算法から得られた差分のJ(pz)と比較することで、Li挿入に伴う電子構造について以下の二つの新たな知見を得た。 1)Li挿入により遍歴的な電子が増大すること。 2)Li挿入によりMn 3d電子が運動量空間で局在化すること。 1)に関して、バンド計算の結果を解析することで、Mn原子、O原子、および、格子間の電子数を調べた。その結果は、x=0~1.5の範囲でMn原子の電子数は変化しないのに対し、O原子、ならびに、格子間の電子数が増大することを示した。このことから、Li挿入によりもたらされた遍歴的な電子の増大は、O 2p軌道の電子の増加を反映してることが分かった。 また、2)に関して、同じくバンド計算の結果を解析したところ、Li挿入に伴いMn原子の磁気モーメントが増大することがわかった。Mn原子の電子数はLiの挿入に対して変化しないことから、この磁気モーメントの増加は、Mn 3d電子の低スピン状態から高スピン状態へのスピン転移が起こり、Mn 3d電子が運動量空間で局在化したことが示唆される。そこで、ハートリフォック法を用いて、運動量空間におけるMn原子の局在化をシミュレートした結果、実験結果を再現する事に成功した。このことから、Li挿入に伴いMn 3d電子の低スピン状態から高スピン状態へのスピン転移が起こり、Mn原子が運動量空間でより局在化することがわかった。 これらの結果は、本研究により初めて得られた結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的の一つは、Liイオン濃度の変化に伴う蓄電池材料内の電子構造を決定する事である。研究実績の項でも言及したとおり、平成24年度はLi組成の異なるLixMn2O4にコンプトン散乱法を適用し、実験から得られたコンプトンプロファイルの差分を、理論計算から得られた差分コンプトンプロファイルと比較することで、 ・Li挿入によりもたらされた電子は、O 2p軌道にはいること ・Li挿入により運動量空間において、Mn 3d電子が局在化すること がわかった。これらの結果は、本研究により初めて得られた結果であり、リチウムイオン二次電池正極材料LiMn2O4の電子構造に対して新たな知見を示す。以上の事から、本研究は概ね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、LixMn2O4において主にLi組成xが1以下での電子構造の解明を行った。本試料のLi組成は、0<x<2まで変化する事が報告されており、既にx>1でのコンプトンプロファイルの測定も行っている。平成25年度は、まずx>1でのLixMn2O4の電子構造の解明を目的とし、実験により得られたコンプトンプロファイルをクラスターモデル計算、および、バンド計算との比較により、その詳細を明らかにする。これにより、 全Li組成範囲においてLixMn2O4の電子構造を明らかにすることが可能となる。クラスターモデル計算に関しては、新たに計算プログラムcrystal09を立ち上げ、本研究に適用する。また、バンド計算に関しては、平成24年度と同様に、Northeastern大学の理論ブループで行う。本研究は、平成24年度の研究の延長上であるため、十分に成果を上げられると確信している。 また、平成25年度は、LixCoO2のコンプトン散乱実験を行う。LiCoO2はリチウムイオン二次電池の正極材料として広く利用されているが、Li組成x>0.5を超えると構造相転移が起こり、この相転移により構造の不安定化が引き起こされること、電極からCoイオンが析出すること、さらに、電解液の酸化分解が起こることが示唆されている。そのため、実用化されているLixCoO2電極のLi組成は、0~0.5に制限され、Liイオンの全てを挿入・脱離したときに得られる充電容量(274mAhg-1)の半分程度の容量しか得られていない。これらの問題を解決するためには、Liイオンの挿入・脱離に伴う電子構造の理解が重要であると考える。そこで、実験で得られたコンプトンプロファイルに昨年度確立した解析手法を適用する事で、LiCoO2の電子構造を解明する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の研究費使用計画は以下の通りである。 消耗品費として、論文投稿料と別刷料として15千円を考えている。また、コンプトン散乱実験にかかる費用として、ビームライン使用料(180千円)、実験補助者4名の謝金(50千円)、交通費、および、宿泊費(160千円)を考えている。また、研究成果報告として、国際学会(Inelastic X-ray scattering2013 (IXS2013), 米国)の参加費と交通費で、350千円、国内学会(物理学会、放射光学会)の参加費、宿泊費、交通費で345千円を考えている。以上より、平成25年度は、計1,100千円を要求する。
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