本研究は大気圧より高い作動圧力下での生体分子イオンの生成と輸送法を開発することを目的としている。本年度はそのためのエレクトロスプレー、ナノエレクトロスプレー及びコロナ放電を用いた超大気圧イオン源の開発が完了した。特製イオン導入チューブを使用し、市販のリニアイオントラップ質量分析計への装着も成功した。そしてメカニカルブースターポンプを導入し、質量分析計の排気速度の調整も可能になり、イオン源の圧力が大気圧を超えても質量分析計の真空度を一定にすることが出来た。水溶媒サンプルでイオン源システムの評価実験を行う、イオン電流とイオン源気圧の依存性を調べた。超大気圧下では、絶縁破壊がより高電圧側に移行するのに対し、エレクトロスプレーの開始電圧は環境圧力に依存しないことを確認し、従来型のエレクトロスプレーイオン化法で困難であった水溶媒サンプルの分析に対して、コロナ放電等の擾乱なしに、正イオンモードおよび負イオンモードのいずれにおいても、高感度に質量分析が実現することを実証した。さらに、プラスチックピペットを用いたナノnL/min レベルのエレクトロスプレーも開発した。プラスチックの内径が大きいため、細いガラス毛細管から作製したナノESIキャピライーの先端に発生しやすい目詰まり問題が起きなかった。この手法を用いて相対的に「汚い」生体サンプルの取り扱いも容易になった。
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