研究概要 |
有機ケイ素基が置換した1,3-エンインと水素化ジイソブチルアルミニウム (DIBAL-H)との反応により対称な四置換ベンゼンが、単一の位置異性体として生成することを既に報告している。しかし、この反応では、同一の1,3-エンインが、転位をともなう二量化を経て四置換ベンゼンを与えるため、多様な多置換ベンゼンを合成するという目的には制限があった。 これに対して、平成24年度の研究では、本反応を段階的に進行させることが可能であり、2種類の異なった1,3-エンインの交差反応が進行することが明らかとなった。すなわち、活性種であるアルミニウム反応剤の反応性を低下させることを目的に、反応系二加える添加剤を種々検討したところ、DIBAL-H と等量のジエチルエーテルを加えることにより、1,3-エンインの自己二量化反応を完全に抑制できることが分かった。続いて同一反応容器に、異なる構造を有する1,3-エンインを追加することにより、反応が段階的に進行し、異なった1,3-エンイン間での交差反応が進行することが分かった。これにより、置換基が異なる非対称な四置換ベンゼンが、中程度の収率ではあるが、完全な位置選択性で合成できることが分かった。 また、途中で加える1,3-エンインの代わりに、トリメチルシリルアセチレンを加えたところ、低収率ではあるが、同様の反応が進行し対応する三置換ベンゼンが完全な位置選択性で得られることも分かった。 以上の結果は、アルミニウム反応剤という入手容易な反応剤や、簡便に調製できる出発物質を用いること、さらに今まで合成できなかった多置換ベンゼンを位置選択的に合成できるという点で、これまでに報告されている多置換ベンゼン合成法に比べ優れているといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定した平成24年度の計画通り、二種類の異なる1,3-エンイン間の交差反応が進行し、非対称な四置換ベンゼンが完全な位置選択制で合成可能となったことから、本研究は順調に進展していると言える。 しかし、四置換ベンゼンの収率は、30~60%と中程度に留まっているため、反応のさらなる効率化が必要であると考えている。また、本反応では、ジエチルエーテルの添加をもってしても、副生物として二段階目に加えた1,3-エンインの自己二量化体が生成してしまう。この自己二量化体は、反応の効率を低下させるのみならず、目的とする交差環化体と構造が非常に似ているため、生成物の単離精製を困難にしている。 以上の二点が,問題点として挙っており、これらを解決する必要がある。しかし現時点で、問題点が明確になっており、また、目的生成物も単離精製し,その構造が同定できているため、本計画は、おおむね順調に進展している。
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