研究課題/領域番号 |
24750084
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
伊藤 淳一 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (20402480)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 触媒反応 / 有機金属錯体 / 不斉反応 / C-H結合切断 / C-C結合生成 / ロジウム / ルテニウム / イリジウム |
研究概要 |
本年度は分子変換のための配位子合成とそれを用いた金属錯体の合成を実施した。非対称型三座配位子としてオキサゾリンとN-ヘテロカルベンを金属の配位部位とするキラル三座配位子を設計した。配位子合成はクロロメチル基を有するフェニルオキサゾリンを合成した。ここに、イミダゾリンを反応させることによって、目的の配位子の合成に成功した。続いて、金属錯体の合成を検討した。種々反応条件を検討したところ、塩化ロジウムをアセトニトリル中で反応させることによって、目的とするロジウム錯体 (CCN)RhCl2(H2O)を得ることができた。さらに単結晶を作成し、X線構造解析により分子構造を明らかにした。推定した通り、配位子は炭素と窒素の三点で金属に結合しており、メリディオナル型の構造であることが分かった。今後は、さらに触媒反応への応用を検討する。 炭素ー炭素結合生成反応としては、末端アルキンと不飽和カルボニル化合物のカップリング反応を検討した。ここでは、ビスオキサゾリンフェニル配位子を有するルテニウム錯体が触媒反応に活性を示すことが分かった。たとえば、不飽和エステルとアルキンとの反応では、β位へのアルキンの導入が起こり、アルキニルエステルが高収率で得られた。本触媒の特徴は塩基などの添加物を必要としない点である。さらに本触媒は、反応性が乏しい不飽和アミドにも用いることができ、アルキニルアミドの合成にも成功した。また、反応速度と選択性には改善の余地を残しているものの不斉反応にも適用することができた。 またイリジウム錯体によるアルカンやアレーンのC-H結合切断反応を開発した。特に化学的な安定な直鎖アルカンのC-H結合切断によるアルキル錯体の合成に成功した。さらに触媒的なC-Hボリル化反応も進行することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では分子変換のための分子触媒の設計と合成、炭素‐炭素結合生成反応の開発を目的としている。触媒設計としては、オキサゾリン‐ヘテロカルベンを組み合わせることにより電子供与性を高めた不斉配位子の設計を目指している。この目的分子の1つである非対称型の配位子とロジウム錯体の合成に成功した。さらに、単結晶X線構造解析により分子構造を明らかにすることができた。また触媒反応に関しては、ルテニウム触媒による末端アルキンの直接的な活性化を鍵とする不飽和カルボニル化合物のアルキニル化反応を実現した。本触媒ではα,β-不飽和ケトン、エステル、アミドなど種々の基質に適用可能であることが分かった。この触媒反応の結果は投稿論文としてChemistry A European Journalにて報告した。C-H結合切断に関して、イリジウム錯体が活性であることを見出した。化学的に安定な直鎖アルカンのC-H結合の切断にも成功した。この結果についてはOrganometallicsにて報告した。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度に引き続き、新規錯体の合成と触媒反応の開発について検討する。前年度の検討により合成した新規配位子について、ロジウムに加えてルテニウム、鉄などの導入を検討し、多様な金属錯体触媒の合成を目指す。さらに、基質と触媒の間に2次的な相互作用を形成できる金属触媒の設計を検討する。具体的にはNH結合やOH結合といった水素結合が可能なアミノ基やヒドロキシル基を有する配位子の合成を目指す。合成した錯体については単結晶X線構造解析、CV測定などを利用して性質を明らかにする。 さらに触媒反応として金属アルキニル基を利用した炭素‐炭素結合生成反応を検討する。これまでの検討により、ルテニウム触媒を用いたアルキンとα,β-不飽和カルボニル化合物のカップリング反応を開発してきた。本年度ではアルキニル種の受容体としてイミンやケトンなどを用いた触媒反応へ展開する。本研究で開発する金属触媒について触媒能を検討し、その結果を触媒設計に反映させる。また、多成分カップリング反応に展開する。具体的には、金属アルキニル種の不飽和カルボニル化合物への1,4―付加によって生成する金属エノラートを求核剤とする連続反応を検討する。アルデヒドなどの求電子剤を作用させることにより、連続する不斉中心を有する化合物の立体選択的な合成法の開発を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
非対称型キラルオキサゾリン複合配位子の合成に関して、中間体合成の収率が低いという問題が生じたため、目的化合物の合成に遅れが生じた。合成経路や反応条件などを最適化することにより、収率は改善されたので、平成24年度中に配位子の合成には成功した。今後は、当初計画していた金属触媒の合成について検討する予定である。具体的にはコバルト、鉄、ロジウムなどの遷移金属を組み合わせて金属触媒の合成し、その構造解析ならびに触媒機能について検討する。
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