研究課題/領域番号 |
24750086
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
矢田 陽 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70619965)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 有機金属化学 / 炭素-水素結合 / 不活性結合活性化 |
研究概要 |
遷移金属錯体を用いた炭素―水素結合の選択的な活性化・官能基化反応の開発は、環境調和に優れた次世代型プロセスとして期待されている。芳香族炭素―水素結合の活性化はよく研究されているものの、アルカンのそれは遅れた研究分野であり、効率的な反応の開発は急務である。本研究は、アルカン炭素―水素結合の酸化的付加に高活性な金属カルベン錯体の合成と、これを利用した高効率・高選択的な触媒反応の開発を目的とするものである。今年度は交付申請書に記載したとおり、アルカン炭素―水素結合の活性化に有効な金属カルベン錯体の調製とその反応性の検討について検討を行った。結果を以下に記す。 まず二つのN-へテロ芳香環カルベン(NHC) 配位子と一酸化炭素(CO)を有するさまざまなロジウムカルベン錯体を合成した。合成したロジウムカルベン錯体を触媒として用い、光照射下、アルカン炭素―水素結合の活性化とつづくホルミル化およびオレフィン類への付加反応を検討した。基質としてアルキルベンゼンを用いたところ、芳香族の炭素―水素結合の活性化された生成物が観測されるものの、アルカンの炭素―水素結合が活性化された生成物は全く得られなかった。アルカン基質としてシクロヘキサンを用いた反応も検討したが、期待どおりの炭素―水素結合の活性化した生成物は得られなかった。 光照射下、RhCl(CO)(PMe3)2錯体を用いた反応では、ケトンやアルデヒドを少量添加すると、アルカン炭素―水素結合がラジカル的に活性化され、反応が促進されることが知られている。そこで金属カルベン錯体を用いる反応においてもさまざまなケトンの添加を検討したところ、シクロヘキサンのホルミル化反応においてベンゾフェノンを添加すると、反応の促進効果が得られることを明らかにした。しかしながら、その活性はRhCl(CO)(PMe3)2錯体を用いる反応には及ばなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで、配位性官能基を用いた触媒的なアルカン炭素―水素結合の活性化は数多く報告されているが、単純アルカンの炭素―水素結合の触媒的活性化反応の例はほとんど知られていない。したがって、アルカン炭素―水素結合の活性化に有効な高活性・高選択的な遷移金属錯体あるいは反応系の開発は、学術的に重要な研究課題である一方、非常に挑戦的な研究課題であるといえる。本年度は交付申請書に記載した研究計画にしたがい、さまざまなNHC配位子を用いて、二つのNHC配位子と一酸化炭素 COを有するロジウムカルベン錯体を合成し、アルカン炭素―水素結合活性化能の評価を行うことができた。ロジウムカルベン錯体の反応性は既存のRhCl(CO)(PMe3)2錯体のそれには及ばないことがわかった一方、カルボニル化合物の添加がロジウムカルベン錯体によるアルカン炭素―水素結合活性化反応においても有効であることを明らかにした。これらの知見は, 次年度以降の本研究課題を推進する上で重要な結果であり、今後の研究の指針を与えるものであると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度も引き続き、アルカン炭素―水素結合の活性化に有効な金属カルベン錯体の開発を行っていく予定であるが、研究開始当初に予定していた金属カルベン錯体の開発に限定せず、ホスフィン錯体やシクロペンタジエニル錯体など、さまざまな錯体を用いた反応を検討する予定である。特に近年, ロジウム3価やコバルト3価シクロペンタジエニル錯体が、芳香族炭素―水素結合の活性化に非常に有効であることが報告されており、これらがアルカンの炭素―水素結合の活性化にも有効であると期待している。 平成25年度はまず、後半に検討を予定していたアルコール類の炭素―水素結合の活性化・官能基化反応の開発を強く推進していく予定である。水酸基が配位性官能基として機能することで、炭素―水素結合の活性化を効率的に行えるだけでなく、熱学的に安定なメタラサイクルの形成を駆動力とした、位置選択的な炭素―水素結合の活性化が期待できるからである。本反応により単純なアルコール類を複雑分子へ効率的に変換できれば、工業的にも有用な反応となるうえ、医薬品合成への応用の可能性を秘めていることから、重要な研究課題であると考えている。 さらに平成25年度後半には、末端イソプロピル基やtert-ブチル基上のメチル基選択的な炭素―水素結合の活性化による複雑分子の構築手法の開発を予定している。配位性官能基を利用したアルカンの炭素―水素結合の活性化は数多く報告されているが、それを用いないものはほとんどないことから、それを用いない反応の開発は非常に重要である。遷移金属錯体を用いて単純アルカンの結合を活性化すると、反応は末端選択的に進行することが知られているので、その知見をもとに、効率的な炭素―水素結合の官能基化反応の開発を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は、本研究の推進に必要な消耗品や国内学会参加費用として研究費を使用したが、次年度、更なる研究の推進が予想されるので、300 千円を次年度に使用できるように研究費を繰り越した。したがって次年度は、請求する研究費と繰越金の合計1,800 千円を次のように使用する計画である。まず、設備備品は既設の設備で十分と判断し、設備備品費は予算に計上していない予定である。消耗品費は、反応基質や配位子、金属錯体、およびこれらを合成する際の原料となる有機化合物の購入(1,100 千円/年)、汎用有機溶媒(300 千円/年)、反応容器やピペット、サンプル瓶などのガラス器具(250 千円/年)といった消耗品や、論文別刷代(50 千円/年)に充てる。また旅費として、本研究の研究成果を発表したり、関連分野の情報を収集したりするために必要な国内学会の参加費用(100 千円/年)を計上した。人件費・謝金や その他の費用等は、本研究を実施するにあたり必要ないと判断し、予算には計上していない。
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