研究課題/領域番号 |
24750096
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
丹羽 節 早稲田大学, 理工学術院, 助教 (30584396)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 不斉酸化反応 / エポキシ化 / 鉄触媒 / 三座配位子 / 複数配位子 |
研究概要 |
本研究の目的は複数の配位子の組み合わせにより全く新たな触媒を創製することにある。すでに1,8-bis(oxazolinyl)carbazol配位子(CAZBOX配位子)と補助配位子の組み合わせにより不斉エポキシ化の反応性の変化を確認しているが、この知見を深めるべく研究を継続した。 その結果、不斉エポキシ化反応においては事前に鉄(cazbox)錯体を調製し、これとN-ヘテロサイクリックカルベン配位子を組み合わせることにより、非常に高いエナンチオ選択性で対応するエポキシドを得ることができた。また補助配位子の存在下においては生成物の収率も高いことが確認できた。反応機構の考察により、補助配位子が鉄中心のLewis酸性を減少させるとともに、遷移状態に立体的な摂動を加えていることが推測された。この結果は、複数の配位子を組み合わせることにより触媒の性能の調整が可能であることを示している。 さらに鍵中間体と思われる鉄オキソ錯体を紫外可視光スペクトル、並びにEPRスペクトルで観測したところ、鉄中心と配位子がそれぞれ一電子酸化を受けた、鉄(IV)オキソカチオンラジカル種であることが強く示唆された。この構造は鉄ポルフィリン錯体の高酸化状態であるオキソ錯体と形式的に同じ構造である。すなわち、CAZBOX配位子が酸化条件においてポルフィリン配位子の代替となる可能性を示した。以上の結果は論文としてアメリカ化学会誌に報告した。(J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 13538.)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成24年度はアルケンの不斉エポキシ化反応の開発と、その詳細な反応機構の解明を並行して行う計画であったが、これらは順調に達成したといえる。特に補助配位子の網羅的なテストとその考察により、補助配位子の役割はある程度明らかになったと言える。これに加えてCAZBOX配位子の特異な性質を発見することができた。すなわちポルフィリンのような特徴的な構造を持つ配位子の模倣体として適用できる可能性を示すことができ、配位子設計における新たな指針を得ることができた。従って、本研究は当初の計画以上に進展していると判断できる。一部計算化学による考察がまだ不足しているが、現在進行している配位子の置換基効果と言った実験的事実の積み重ねにより仮説を立て、仮説の妥当性を今後計算化学で見ることにより充分目標を達成できると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は大きく二つの柱を立てて研究を継続、かつ展開する。一つ目は当初の計画通りCAZBOX配位子の特異な性質を駆使し、sp3炭素-水素結合の直接水酸基化、ならびにアルケンのジヒドロキシ化に挑戦する。すでに前者については反応が進行することを確認しており、今後基質の一般性の検討、反応条件の最適化を経て、本戦略の有用性を明らかにしていく。 さらに、平成24年度における鍵中間体の精査により、配位子自身が一電子酸化する特異な性質が酸化反応に有用である知見を得た。配位子自身の酸化を促すには配位子のHOMOが高いことが条件として挙げられる。この情報を配位子の設計指針として採用し、三座配位子のみならず二座配位子にも適用し、酸化反応の形式の拡大を試みる。これらの設計指針に基づく配位子の組み合わせにより、従来には見出すことのできなかった高性能酸化触媒を効率よく創出していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度も引き続き試薬代に多くの研究費を用いる予定である。配位子の設計指針が本研究の鍵となるので、多様な配位子の創出には多様な構造の配位子の合成が不可欠である。また平成24年度の情報からまとめ、国際会議などでの発表を考えている。これによる旅費の増加が予想される。
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