平成24年度にはオキサゾール環を基盤とする3座配位子(CAZBOX配位子)が、ポルフィリン配位子のような挙動を不斉エポキシ反応において示し、ポルフィリン代替配位子として機能する可能性を示唆する結果を得た。その研究過程で、補助配位子の添加による触媒能の調整が可能であることを見いだした。 平成26年度ではこの鉄(cazbox)錯体のエポキシ化反応反応機構解明を目的とし、配位子の置換基効果に詳細に検討を行った。様々な置換基を有するCAZBOX配位子を合成すべく、いくつかの新たな合成ルートを開発した。合成したCAZBOX誘導体を用いた不斉エポキシ化反応の検討を行ったところ、生成物のエナンチオ選択性が配位子と基質の芳香環部位の電子密度に大きく依存することを明らかにした。通常不斉反応の選択性は立体的な影響を大きく受けるが、本反応ではむしろこの効果は小さいことがわかった。このことは、立体的に小さい(Z)-アルケンを用いた不斉エポキシ化ではエナンチオ選択性が低かったことと矛盾しない。この結果は、不斉発現の過程に電子的相互作用が強く働いていることを示しており、サレン配位子など既存の不斉配位子と異なる性質を有しており、非常に興味深い結果である。今後計算化学などの手法を用いて、詳細な相互作用を明らかにする予定である。またこの結果を受けて、さらに高いエナンチオ選択性を示す不斉配位子の創製を現在検討している。これらの研究から見いだされた不斉配位子を用いて、不斉エポキシ化以外の不斉酸化反応へと研究を展開させていく。
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