研究概要 |
計算科学の発展は不均一系触媒の構造や反応機構に関する種々の実験結果に量子化学的な解釈を与えることに成功したが、計算科学を主導とした高性能触媒の非経験的設計は未だに実現されていない。一方、工業的なオレフィン重合の主翼を担う不均一系Ziegler-Natta触媒の性能向上において、新規ドナーの開発が切望されている。近年、我々は実験結果に裏打ちされた密度汎関数計算によって、種々の結果を統一的に説明可能な共吸着モデルを提唱した。本研究の目的は、この高精度モデルを更に洗練し、真に非経験的なドナー設計を史上初めて実現することである。 本年度は、各種のモノエステル系ドナー(安息香酸エチル、安息香酸メチル、ヘプタン酸エチル、プロピレン酸フェニル)を用いた触媒のプロピレン重合性能に関する実験結果[B. Liu et al., Macrmol. Symp. 2007, 260, 42.]を計算科学的に定量再現可能なモデルを提案することを第一目標とし、大規模な密度汎関数計算を行った。 不均一系触媒に代表される複合材料の性能を定量再現するに当っては、系に存在する全ての成分間の相互作用を適切なモデルで記述することが肝要である。具体的には、Ziegler-Natta触媒を構成するMgCl2, TiCl4, ドナー, アルキルアルミニウム間の相互作用を密度汎関数計算によって厳密に取り扱うことで、実験で得られた触媒活性が表面に吸着したドナーのアルキルアルミニウムによる脱離の活性化エネルギーによって、ポリプロピレンの立体構造が共吸着モデルの枠内で描写される活性表面構造の立体特異性(プロピレンのre面挿入とsi面挿入の活性化エネルギー差)によって、それぞれ定量的に再現可能であることが明らかとなった。これは、不均一系触媒の性能を第一原理的な計算科学に基づき定量再現した世界で初めての成功例である。
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