一般に汎用高分子の耐熱性は低い。しかし、高分子の主鎖中に環状構造を導入しその剛直性を増加させ分子運動性を低下させることにより、そのガラス転移温度を向上させることができる。ただ実際には、汎用的に利用されている環状オレフィン類の種類は非常に限定的であるため、多様な環状オレフィンを創製できる新規合成手法の開発が望まれている。そこで本研究では、N-ヘテロ環状カルベン(NHC)を有機分子触媒でとして用い、汎用的なビニルモノマーから環状モノマーを合成する全く新しい方法論を開発することを目的とする。我々は、NHC触媒をアクリル酸メチルに作用させたところ、環化四量化反応が進行し、新規環状オレフィンである三置換型シクロペンテノン誘導体を与えることを見出した。この反応はアクリル酸エチル、i-ブチル、2-メトキシエチルにも適用可能であった。反応中間体のプロトン付加体を単離することなどにより、アクリル酸エステルの極性転換が関与する反応機構であることが明らかとなった。最終年度においては、二成分の反応基質から環状モノマーを合成することを検討した。NHCとメタクリス酸メチル(MMA)もしくはクロトン酸メチルを反応させ、その中間体とイソシアネート類を反応させると、環化反応が進行し、三成分生成物が得られることが分かった。また、ビニルモノマーとしてチグリン酸メチルを用いたところ、NHCからの脱離反応が進行し、環状モノマーの生成が確認された。また、メタクリル酸2-ブロモエチルを塩基存在下、NHC触媒で作用させたところ、分子内SN2反応が進行し環状オレフィンモノマーが生成することが確認された。以上、新規有機合成手法であるNHC触媒によるオレフィンの極性転換反応により、6種類の環状モノマーを生成させることに成功した。
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