研究課題
本研究では、リビングラジカル重合により一次構造制御した機能性直鎖ポリマーを、外部環境(溶媒・温度)を制御してポリマー側鎖機能基を分子内会合または組織化し、ポリマー一分子鎖の折り畳み(Folding)構造をもつ「一分子鎖折り畳みポリマー」を構築する。さらに、分子内Folding構造と運動性を詳細に解析し、一分子鎖Foldingによる内部ナノ空間を用いた革新的機能の創出を目指す。上記目的のもと、平成24年度は、以下の一分子鎖折り畳みポリマーを合成、評価するとともに、機能創出へと展開した。(1)疎水性相互作用による一分子鎖折り畳みポリマーの構築ルテニウム触媒により親水性ポリエチレングリコール鎖を持つメタクリレート(PEGMA)と疎水性アルキル鎖を持つメタクリレートをリビングラジカル重合し、分子量や共重合組成比を制御した両親媒性ランダムコポリマーを合成した(Mw/Mn = 1.2-1.4)。多角度光散乱と動的光散乱より、PEGMAとドデシルメタクリレートDMAからなるコポリマーの場合、疎水性DMA組成比を40%以下に設定する([PEGMA]/[DMA] = 200/0-120/80)と、水中にて一分子鎖で折り畳まれ、コンパクトな形態を取ることが明らかとなった。また、1H NMRやUV-vis測定により、本コポリマーは、水中にて運動性の小さいナノ疎水場を形成していることがわかった。さらに、その疎水場を利用して、水中に疎水性色素を可溶化させることにも成功した。(2)一分子鎖折り畳みポリマーの分子内架橋による一分子鎖星型ポリマーへの展開疎水性オレフィン側鎖をもつ両親媒性コポリマーを水に溶解し、一分子鎖折り畳み構造を形成した後に、フリー(又はリビング)ラジカル重合すると、その疎水性空間を高選択的に分子内架橋でき、一分子鎖星型ポリマーを構築できることに見出した。
1: 当初の計画以上に進展している
平成24年度は、リビングラジカル重合により分子量や組成比などを精密に制御した両親媒性コポリマーを合成し、さらに光散乱など各種手法を多角的に用いて、水中での折り畳み構造を精密に評価解析することに成功した。このように、当初平成24年度に計画していた一分子鎖折り畳みポリマーの合成・設計指針を確立することに成功している。また、本コポリマーは、疎水性色素を水中にて効果的に可溶化・認識することが明らかになり、当初は平成25年度に詳細な検討を予定した機能の創出をすでに実現しつつある。さらに、一分子鎖折り畳みポリマーを水中にて架橋すると、高選択的な分子内架橋が進行し、一分子鎖星型ポリマーを創出することにも成功した。これは、申請者が予想していなかった発見であり、今後新たな展開が大いに期待される。以上の理由から、当該研究は当初の計画以上に親展していると判断される。
上述の平成24年度の結果に基づき、平成25年度は、一分子鎖折り畳みポリマーの機能化、一分子折り畳みを利用した特殊構造高分子の創成、及びこれらのポリマーを利用した特異な機能の創出に焦点をあてる。具体的には以下を検討予定である。(1)機能性一分子鎖折り畳みポリマーの構築 リビングラジカル重合により水素結合性ウレア基などの機能性基を有する機能性両親媒性ランダムコポリマーを合成し、水中での折り畳み構造を多角的に評価する。さらに、その機能基を利用した分子認識や触媒反応を検討する。例えば、モノマーと相互作用する機能基(ウレアなど)を側鎖に持つ両親媒性ランダムコポリマーを用い、水中での精密重合を検討する。特に、従来精密重合が困難であったモノマーに適応し、分子量や立体、連鎖などの制御を目指す。(2)精密側鎖重合による一分子鎖星型ポリマー・ラダーポリマーの構築 リビングラジカル重合を用いて、疎水性オレフィン(スチレン、ビニルエーテルなど)側鎖を有する両親媒性コポリマーを設計する。さらに、この疎水性側鎖を交互共重合し、モノマー連鎖が精密制御された核や側鎖を有する一分子鎖星型ポリマーやラダーポリマーを合成する。本手法では、両親媒性コポリマーの側鎖に導入するオレフィン量により、星型ポリマーからラダーポリマーまで、そのポリマー構造を自由に設計できる点が独創的である。また、簡便に精密連鎖制御ユニットを組み込めるため、その連鎖配列を利用した特異な機能創出も検討する。(3)多分岐両親媒性コポリマーの折り畳みを利用したナノカプセルの構築 多官能性開始剤をもちいて両親媒性コポリマーを合成し、これを水中で一分子にて折り畳み、疎水性球状内部空間を有するナノカプセルを創出する。本カプセルは、高い分子捕捉容量と極めて低い粘性が予想され、新たな分子捕捉材料として興味深い。
平成25年度は、上記研究計画を推進するため、平成24年度と同様に合成実験を行う必要がある。また、本研究を遂行して得られた成果は、国内外の学会にて発表する予定である。従って、平成25年度も、昨年と同様に研究費を、各種化合物の購入のための物品費と学会発表などの旅費として使用する。
すべて 2013 2012 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (20件) (うち招待講演 1件)
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