研究概要 |
昨年度の研究活動において、1,8-ジアミノナフタレン(DAN)でホウ素上を保護した3-ヨード-2-ナフチルボロン酸の反復鈴木-宮浦カップリングにより、末端にホウ素部位を有するオリゴ(ナフタレン-2,3-ジイル)の精密合成を達成している。このオリゴマーは、ナフタレン環同士の立体反発により平面構造をとれず、らせん構造を形成していると期待される。これらの知見を基に、本年度は、反応条件のさらなる最適化によるオリゴナフタレンの収率向上と、末端ホウ素部位への光学活性置換基の導入によるオリゴマーのキラル高次構造制御を行った。 鈴木-宮浦カップリング反応の触媒検討をおこなったところ、配位子を添加せずトリフルオロ酢酸パラジウムのみを用いる条件が最も良い収率を示し、4量体を86%収率、5量体を59%収率で与えた。得られたオリゴマーの末端ホウ素上のDAN保護基を、酸性条件下脱保護することでボロン酸へと変換し、(R,R)-ヒドロベンゾインとの脱水縮合により光学活性ボロン酸エステル部位を導入した。この光学活性末端により誘起されたキラル高次構造に関する知見を得るために、アセトニトリル溶媒中における分光学的解析をおこなった。NMR解析により、3-5量体のオリゴマーは室温において複数の配座異性体を形成していることが示唆された。UVスペクトルにおいては、オリゴマーの伸長による吸収端の明確な長波長シフトがみられなかったことから、ナフタレンユニットはらせん構造をとっており、ほとんど共役していないものと考えられる。CDスペクトルにおいて、2量体、3量体は明確なピークを示さなかったのに対し、4量体、5量体は芳香族由来の270nm付近に大きな負のシグナルを示したことから、オリゴナフタレン部位にらせんキラリティーが誘起されていることが示唆された。これらの結果より、光学活性末端によりオリゴ(ナフタレン-2,3-ジイル)のらせんキラリティーを制御できることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
芳香環がオルト位で連結したオリゴ(オルトアレーン)化合物は、芳香環同士の立体反発によりらせん構造を形成することが知られており、特有の物性を示すことから機能性材料への応用が期待されている。その一方で、このようなオリゴ(オルトアレーン)化合物の合成法は未だ限られており、なかでもオリゴ(ナフタレン-2,3-ジイル)の有効かつ一般的な合成法の開発が求められている。本研究では、ホウ素上を1,8-ジアミノナフタレンで保護した3-ヨード-2-ナフチルボロン酸をカップリングモジュールとすることで、反復鈴木-宮浦カップリングによるオリゴ(ナフタレン-2,3-ジイル)の効率的な合成法を開拓した。また、オリゴナフタレンの末端ホウ素部位を光学活性なボロン酸エステルに変換することにより、らせんキラリティーを制御したことは大きな進展といえる。分光学的手法を駆使することにより、オリゴマーのキラルらせん構造に関する知見も得られつつあることから、本研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、無置換オリゴ(ナフタレン‐2,3‐ジイル)の合成とらせんキラリティー制御に関する基本的な知見が得られている。次年度はこの結果を踏まえ、側鎖に置換基を導入したオリゴナフタレンの合成とらせんキラリティー制御について検討するとともに、オリゴマーのキラルらせん構造の解析をおこなう。 当研究室では行われてきたポリ(キノキサリン2,3‐ジイル)の研究においては、5,8位の置換基がらせん構造に大きく影響し、置換基によりキノキサリン環同士の二面角やらせん構造の安定性を制御できることが見出されている。類似の基本骨格を有するオリゴ(ナフタレン‐2,3‐ジイル)においても5,8位の置換基がらせん構造に大きく影響すると考えられることから、まずは5,8位にメチル基を導入したオリゴ(ナフタレン-2,3-ジイル)の合成とらせんキラリティー制御について検討を行う。5,8位にメチル基を導入することで誘起されるらせん構造は、無置換のものと同様に動的であると考えられることから、単結晶X線構造解析により固体状態におけるキラルらせん構造を明らかにするとともに、CDスペクトル解析により溶液中におけるキラルらせん構造とらせん方向過剰率についての知見を得る。これらの検討により、新たな機能性材料創出のための新たな分子骨格の確立につなげる。
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