本研究では,カチオン重合挙動に基づいて多様なルイス酸触媒の個性を知り,それを活かして従来に無い特長を有する制御重合開始剤系を設計することを目的とした。 今年度は主に,(1)サレン配位子を有する金属錯体を触媒とするリビングカチオン重合系の構築,(2)ビニルエーテル(VE)のハロゲン化水素付加体の簡便な合成法の開発,(3)ビニルモノマーとオキシランを用いたビニル付加・開環カチオン共重合系の設計を検討した。 (1)では,昨年度に見出したサレン配位子とZrCl4などの金属塩化物を組み合わせたリビング重合開始剤系について,配位子の骨格が触媒活性に大きく影響することを明らかにした。特に,salphen配位子を用いると,salen配位子の系に比べて10倍近く大きい速度でリビング重合が進行することがわかった。 (2)では,扱いにくいハロゲン化水素の発生を伴っていた従来法と異なり,非常に簡便にVEのハロゲン化水素付加体を合成する方法を見出した。具体的には,トリフルオロメタンスルホン酸とハロゲン化テトラブチルアンモニウムを溶媒中で混合し,これにVEを加えることで定量的にハロゲン化水素付加体が得られた。さらに多量のVEを加えると,適切な条件下,生成した付加体は触媒を用いずに活性化し,リビングカチオン重合が進行した。本手法は,種々のルイス酸触媒による重合のための簡便な開始種合成法としても有用であった。 (3)では,オキシランとしてイソブチレンオキシドを用いると,クロスオーバー反応を伴ってVEとの共重合が進行することを昨年度見出したが,今年度はその重合機構の解明に向けて詳細な検討を行った。特に,B(C6F5)3触媒が非配位性の対アニオンを形成し,ドーマント種の生成を伴わない機構で進行することが重要であると示唆された。また,アルコキシオキシランを用いた共重合が転位を伴う機構で進行する可能性を見出した。
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