研究課題/領域番号 |
24750111
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
水雲 智信 広島大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90436676)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ケイ素ポリマー / シラトラン / イオン伝導性 |
研究概要 |
シラトランを単位構造に持つ新しいイオン伝導性ケイ素ポリマーを得ることを目的として、高分子化シラトランの合成とイオン伝導性の評価を試みた。ラジカル重合による高分子化が可能な系として、メタクリロイルシラトランを合成し、目的のポリマーが得られることを確認した。得られたポリマーにはリチウム塩が溶解し、均一な膜が得られることも明らかとなった。しかしポリメタクリロイルシラトラン類とリチウム塩の複合体はガラス転移温度(Tg)が高く、イオン伝導性はほとんど発現しなかった。メタクリロイルシラトランとポリエチレンオキシドのコポリマーを合成したところ、低Tgと高極性を満たしたポリマーが得られ、従来のポリエチレンオキシド系イオン伝導性高分子膜よりも約2倍高いイオン伝導度が発現することが明らかとなった。一方で、ヒドロシリル化反応によって高分子上にシラトラン構造を導入する方法も試みた。ビニルシラトランまたはアリルシラトランと、ヒドロシリル基を有するポリジメチルシロキサン類を白金触媒存在下で反応させることにより、ポリシロキサン上にシラトラン構造を固定したオリゴマーを合成した。得られたオリゴマーにはスルホニルイミド塩などのリチウム塩が高濃度溶解することが明らかとなった。Tgも低い値に保持されており、室温において10-5 S cm-1 のイオン伝導度を発現することが明らかとなった。さらに、得られたポリマーは70%程度の高いリチウムイオン輸率を有することが明らかとなった。ポリエチレンオキシド等の従来のポリマーはルイス塩基でありカチオンに配位するのに対して、本研究で得られた系はアニオン配位性がより優勢であったためと考えられる。また、アミノ基を有するシルセスキオキサンを超強酸で塩とした後に加水分解・縮重合反応させることでかご型オリゴマー(POSS)が短時間・高収率で得られることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
シラトランを有するケイ素ポリマーの合成に関して、基本的な系のうちの数種を達成した。ラジカル重合やヒドロシリル化によって高収率で目的物が得られることがモデルオリゴマーで確認できた。かご型シルセスキオキサン上に多数のシラトランを分岐させた系についても合成を行ない、その結果をもとにBeads-on-chain型ポリマーの簡便な合成についても着手している。シラトラン構造を有するポリシルセスキオキサンについてはモデルオリゴマーで電気化学的・熱的安定性についても評価を進め、5Vを超える電位窓や300℃を超える耐熱性を有することを明らかとした。さらにリチウムイオン輸率も70%程度あり、イオン伝導性高分子としては非常に高いことを明らかとした。当初研究計画していたH24年の計画を概ね達成しており、基礎となる合成手法に目処が立ったことの意義は非常に大きい。電気化学測定などを前倒しして行うことができており順調である。
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今後の研究の推進方策 |
ポリシロキサン鎖を有するシラトランが広い電位窓や高いイオン輸率、高い耐熱性を有することを明らかとしたので、今後シラトラン部位や高分子主鎖部位の構造、分岐様式を変化させることでこれらの更なる改善を検討する。イオン伝導度に関しては、高温において高い値が得られているが、室温以下の値においては10-6 S cm-1 程度の値に留まっているため、温度依存性の小さくするための分子設計が必要である。POSSを分岐点としたBeads-on-Chain型ポリマーでは極性部位を鎖上に近接させることができるため、イオン移動の際の活性化エネルギーを低下させることが期待できる。一方で、シラトラン以外にもボラトランやチタナトラン、ゲルマトランについてもリチウム塩複合体を作成し、元素による構造変化を比較するとともに、イオン伝導特性の相違を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度経費のほとんどは研究を進めるために適宜使用されたが5万円弱の額が残った。この残額分は投稿論文の英文構成費として使用する予定である。25年度の予算は薬品類、ガラス器具、電気化学測定用の電極類等の消耗品、および論文投稿に際する英文構成費、成果発表と最新情報収集のための学会参加費と旅費に使用する。
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