研究課題/領域番号 |
24750114
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
瀬戸 良太 近畿大学, 分子工学研究所, 研究員 (60621141)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | スピロオルトカーボネート / カルド構造 / 重縮合 / フルオレン / 有機薄膜太陽電池 / フラーレン相溶性 |
研究概要 |
有機薄膜太陽電池に用いる新規ドナー性ポリマーを合成するため、ポリスピロオルトカーボナートの合成を行った。まず、ポリスピロオルトカーボナートの溶解性を検討するため、テトラヒドロキシベンゼンとテトラクロロベンゾビスベンゾジオキソールをクロロベンゼン中130度に加熱することによって重縮合を行い、直線状のポリスピロオルトカーボナートを合成した。しかしながら、得られたポリマーは主鎖にカルド構造を含んでいるが、著しく溶解性が悪く、NMP等の高極性溶媒に加熱時に一部溶解するのみであった。そこで、溶解性を改善するべく、主鎖とは垂直方向にカルド構造を導入し、主鎖に柔軟性を持たせる事によって溶解性を向上させることを試みた。テトラヒドロキシベンゼンを、フルオレン骨格を含むビスカテコールフルオレンに変換し、同様にテトラクロロベンゾビスベンゾジオキソールとの重縮合を行った。対応するポリマーは収率92%と言う高収率で得られ、その構造はNMR及びIRから確認した。また、得られたポリマーはニトロベンゼン、クロロホルム、THF、1,4-ジオキサン、DMF、DMAc、NMP、シクロヘキサノン等の有機溶媒に可溶であることがわかった。GPCによる分子量測定では数平均分子量4,500、重量平均分子量11,000と高分子量体ではなかったが、ポリマーのシクロヘキサノン溶液を用いてスピンコートでガラス基板上に膜厚が約200 nmのフィルムを成膜することも可能であった。さらに、熱物性を測定したところ、5%重量減少温度は424度と比較的高い分解温度をもち、ガラス転移点は観察されなかったことから、非常に耐熱性に優れたポリマーであることがわかった。フルオレン骨格はフラーレンとの相溶性が確認されているため、今回合成したフラーレン含有ポリスピロオルトカーボナートは新規ドナー性ポリマーの主要骨格として利用することが期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ポリマー及びモノマーの有機溶媒に対する溶解性が著しく低いために当初計画していた分子設計では高分子量のポリマーが得られなかった。そのため、溶解性を向上させるべく分子設計を改良していたために当初の計画から大幅に進行が遅延してしまった。当初の研究計画にあったスピロオルトカーボナート構造に固執していたため分子設計に制約があり、そのために溶解性が向上しないモノマーばかりを探索することとなり、計画からの逸脱が生じてしまった。スピロオルトカーボナート構造が重要なのではなく、それを含むカルド構造が重要であるので、カルド構造に範囲を広げて分子設計を行ったところ、主鎖にフルオレン骨格を導入することによって溶解性の高いポリマーが得られた。さらに、フルオレン骨格は有機溶媒に対する溶解性が高いだけではなく、計画当初の目標であるアクセプター化合物のフラーレンとも相溶性が高いことから、当初の分子設計からの大きな逸脱は解消できたと考えている。計画当初から溶解性は不安材料であったので、ポリマーの溶解性の問題が解決できた点は、評価できると考えている。しかしながら、ドナー性ポリマーの重要な部分である導電性の測定などはまだ行っておらず、また、溶解性に重点を置いたため導電性を考えた分子設計をしていないため、そちらの目標は達成されていない。当初の計画では溶解性が高く、熱物性、導電性に優れたドナー性ポリマーを設計、合成することを目標としていたので、目標の多くがいまだに達成されていない状態である。
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今後の研究の推進方策 |
様々な化合物を試みた結果、ポリマーの溶解性に関する知見が得られ、その知見を基に、有機溶媒に対する溶解性の高いポリマーが得られたことから、今後はアクセプター化合物であるフラーレン誘導体との相溶性試験を行う予定である。また、ドナー性ポリマーとして重要な導電性の試験及び導電性の向上を検討する。スピロオルトカーボナート構造を含むカルド構造と、ポリマーの有機溶媒に対する溶解性の関係がわかったことから、今後は溶解性の高い構造を維持しつつ導電性などの必要な項目を検討していく。基本的には前年度と同様に、設計、合成、評価の繰り返しになるが、評価するポイントを溶解性から相溶性へ、相溶性から導電性へとシフトさせていく予定である。また、得られた知見を積極的に内外の発信するべく、学術論文への投稿も行っていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度の研究費で実験設備及び実験器具をそろえることができ、実験手順も確立されたことから、次年度の研究費は主に試薬購入に充てる予定である。また、研究成果を内外に公表するべく、学会参加登録費、学会参加交通費に加え、学術論文雑誌への投稿費としても研究費を使用する予定である。次年度はフラーレン誘導体との相溶性を評価するべく、フラーレン誘導体の購入を行う必要がある。また、導電性の向上を試みるため、様々な化合物を検討する必要があり、それらの化合物の原料を購入する必要がある。さらに、合成、分子量測定に必要な溶媒などその他の試薬購入にも研究費を使用する予定である。
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