研究課題/領域番号 |
24750117
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
内田 太郎 北海道大学, 触媒化学研究センター, 特任助教 (70581643)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 水分解 / 電極触媒 / 表面機能化 / 表面増強赤外分光 / 第一原理分子動力学計算 |
研究概要 |
水素は『持続可能な社会のクリーンエネルギー』として注目されている。現在の水素の工業的製法は化石燃料の水蒸気改質であり、副生成物としてCO2が生じる。このような状況の中で、われわれは、AgならびにCu電極表面に4,4’-ビピリジン(BiPy)を吸着させると、中性・アルカリ性水溶液中での水の電気分解による水素発生による過電圧が低下することを見出し、分子レベルでその反応機構を明らかにした。このように、溶液中にある種の有機化合物を添加すると水素発生の過電圧が低下することはHgやAg、Cu電極など、水素過電圧の大きい電極における水電解で古くから知られているが、その機構はこれまで不明であった。この結果は、分子をうまく設計すれば、安価な電極で触媒活性を格段に改善できる可能性を示すものである。本研究の目的は、電極吸着分子による環境問題解決に寄与しうる還元反応を実験ならびに第一原理計算を駆使し、分子レベルで理解することで高活性な電極触媒のデザインに役立て、実証することである。 本年度は、実験化学的アプローチとして、ピリジン、チオ尿素ならびにパラアミノチオフェノールによる水素発生促進ならびに、CO2還元促進反応を表面吸着種を選択的に観測できる表面増強赤外吸収分光をもちいて検討を行った。その結果、反応中で表面吸着種のみならず生成物の同時測定を行わねば、反応の解析が非常に困難であることがわかった。そこで現在、表面増強赤外分光の測定法を改良し、表面吸着種ならびにバルクに存在する生成物の同時測定法の開発をおこなっている。また、計算化学的アプローチとして、モデルとして反応機構を実験的に明らかにした、BiPyによる水素発生の第一原理分子動力学計算をおこなった。2段階でおこるBiPyによる水素発生促進反応の第一段階目の反応が計算機上で再現できたことから、現在、第二段階目の反応を計算中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で述べたように、実験化学的アプローチでは、測定法に工夫をしなければならなくなった。このように、当初予定していなかったことを行わなければならず、その点では予定よりも遅れている。しかし、その測定法に関しても今年度中に解決の糸口がすでにみられたため、次年度中には解決がつくと考えている。 また、計算化学的手法によるアプローチでは、当初、計算の初期条件をどのようにするかでかなり時間がかかるものと考えていたが、予定よりもはやくモデル系の計算がすすんだ。そこで、来年度前半にはモデル計算のすべてが完了し、他の分子種に関しての計算をおこなうことができるものと考えられる。 このような実験的手法ならびに計算化学的手法での進捗状況を加味しておおむね良好とした。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、実験化学的アプローチとしては、まず、赤外分光による電極表面吸着種ならびに生成物の同時測定法の確立を目指す。そして、その方法を用いて、触媒活性のある電極表面吸着分子の測定をおこない、反応中間体ならびに生成物の測定をおこなう。 計算化学的アプローチでは、第一原理分子動力学計算により、BiPyによる水素発生促進のモデル系の全反応を計算し、実験結果を計算機上で再現できるよう早急におこなう。それをもとに、他の分子の反応シミュレーションをおこなう。また、計算結果をもとにどのように分子をデザインしていくか、in silicoによる分子デザインが薬学の分野ではすすんでいることから、in silicoによる創薬手法を習うことで、実際のデザインに役立てる予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額の53円は、消耗品費に組み込み、実験に使用する試薬の購入に充てる予定である。
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