研究概要 |
本年度は研究目標である導電性単分子磁石(単分子磁石をSMMと表記)の磁気抵抗効果を目指し研究を行った。申請者が既に合成している導電性SMM化合物[TbPc2]Clxは良質な単結晶を得るのが難しく、単結晶の質にばらつきがあることがわかった。そこで新たに、良質で各種物性測定に十分耐えうる導電性SMM化合物[TbPc2]I2の合成を実施した。申請者はTbPc2の安定な電気化学的酸化還元特性に注目し、電解酸化結晶法を用いて、ヨウ素をドープしながら結晶化を行なった。この手法を用いることでSMM挙動を示すTbPc2錯体の部分酸化が可能となり、伝導性を付加できる。X線単結晶構造解析の結果は、TbPc2がフタロシアニン面を平行にc軸方向に一次元的に配列し、ヨウ素も一次元的に並んでいることがわかった。単結晶をもちいた顕微ラマン測定の結果、その特徴的なスペクトルからヨウ素はI3-であることがわかった。従って、[TbPc2]I3(2/3)となることから、TbPc2の酸化数は+2/3で部分酸化状態であることがわかった。電気伝導度測定の結果は、電子構造を反映した半導体挙動を示した。静磁化率測定の結果、結晶構造に対応したc軸方向に一軸異方性の強い系であり、磁気ヒステリシスは17 Kまで観測されたことから、比較的高温でスピンが凍結されていることを観測した。また交流磁化率の結果、遅い磁化緩和現象を確認しSMMであることを明らかにした。さらに、中心希土類金属をLn (Y, Dy, Ho, Gd, Eu など) に変えることで、同じ結晶構造・酸化状態の一次元化合物[LnPc2]I2の合成も実施した。今後、導電性SMM化合物[TbPc2]I2の磁気抵抗を測定し、スピン依存伝度現象を詳細に調べる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後、導電性SMM化合物[TbPc2]I2の磁気抵抗を測定し、スピン依存伝度現象を詳細に調べる予定である。また、同じ結晶構造・酸化状態の一次元化合物[LnPc2]I2(Ln =Y, Dy, Ho, Gd, Eu など)の合成も実施したので、これらの化合物とスピン依存伝度現象を比較することで局在スピンと伝導電子の相関について研究を進める。
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