研究課題
導電性単分子磁石(単分子磁石=SMM)の磁気抵抗効果を目指し研究を行った。良質で各種物性測定に十分耐えうる導電性SMM化合物[TbPc2]Ixを合成した(テルビウム=Tb,フタロシアニン=Pc)。TbPc2の安定な電気化学的酸化還元特性に注目し、電解法を用いてヨウ素ドープしながら結晶を作成し、磁気特性および電気伝導特性について詳細に研究をおこなった。[TbPc2]Ixの単結晶構造解析の結果、Pc面を平行に分子がc軸方向に一次元に積層していることがわかった。磁気測定の結果、[TbPc2]Ixは、結晶構造に対応したc軸方向に一軸磁気異方性の強い系であり、磁気ヒステリシスは18 Kまで観測された。また交流磁気測定の結果、遅い磁化緩和現象を確認しSMMであることがわかった。単結晶を用いた光学反射スペクトルは分子積層方向(c軸)において0.8 eVで反射率の急激な立ち上がりが観測された。一方、分子積層方向に垂直方向(a軸)では反射率の立ち上がりが観測されないことから、反射率に異方性があることがわかった。単結晶の電気伝導度測定の結果、電子構造を反映した半導体挙動を示した。伝導挙動は異方性を示し、c軸方向はa軸方向に比べて2桁程度良く電気が流れる。この結果は、光学反射スペクトルの結果と矛盾しない。スピン依存伝導挙動はヒステリシスを示し、その温度依存性は磁気ヒステリスの温度依存性に対応していることから導電性SMMの磁気抵抗効果の観測に成功した。本研究課題において、SMMと電気伝導性が相関して起こる磁気抵抗効果を観測したことで、導電性SMMを利用したスピントロニクスという新たな研究領域を開拓できる可能性がある。本研究課題の成果が分子性導体と分子磁性双方の研究領域に与えるインパクトは計り知れない。
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