本研究では、分子性金属酸化物の特異な配位性空間を利用した異種金属多核クラスターの精密合成と、触媒特性や磁気特性などの機能制御を行うことを目的としている。昨年度までに、希土類金属二核構造の合成と、それらのルイス酸・塩基触媒特性、単分子磁石特性を明らかにした。本年度は、昨年度得た知見に基づいて、段階的な金属導入法を利用したジスプロシウムイオン-希土類金属イオン(ユウロピウム、イッテルビウム、ルテチウム)の異種二核構造および遷移金属多核構造の合成法をそれぞれ確立し、磁気特性の制御を行うことを目指した。有機溶媒中でシリコタングステートの配位サイトに二種類の希土類金属イオンを段階的に導入することで、ジスプロシウムイオン-希土類金属イオンからなる異種二核構造を合成することに成功した。交流磁化率測定の結果、これらの二核構造が単分子磁石特性を示すことを見出した。また、ジスプロシウムイオンに隣接して導入される希土類金属イオンのイオン半径を変えることで磁気異方性が変化し、ユウロピウムイオンを導入した場合に最も高い活性化障壁を示すことを明らかにした。さらに、同様の段階的な金属導入手法を利用して、遷移金属からなる異種多核構造を合成し、構造に応じて単分子磁石特性を制御することに成功した。
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