本年度は、本課題で開拓したテトラチアフルバレン(TTF)骨格に対してキノキサリンイミド骨格を縮環させる合成法を用いて、新規のアクセプター型TTF分子の合成を行った。溶媒に可溶性を持たせ、分子配列を制御する目的で様々なアルキル鎖形状を持つ分子の開発に成功した。これらの分子の電子構造を検討した結果、従来電子供与性ドナー分子として用いられるTTF骨格にアクセプター性を付与させることに成功した。様々な有機溶媒に対して、これらの分子を溶解させた溶液を作成し、スピンコート法を用いてシリコン基板上に塗布し、金電極を用いたトップコンタクト型のトランジスタ素子を作成したが、ゲート変調は観測されなかった。原子間力顕微鏡によるモルフォロジーの観察結果から、凹凸のおおきな分子の凝集形状が確認され、グレイン境界が密に接触していないことがゲート変調が観測されなかった原因として考えられる。 しかしながら合成した分子骨格が強い凝集力を持つことが明らかになったため、新たな展開として、バルクヘテロジャンクション型太陽電池のアクセプター分子への応用を検討した。合成した分子を、ドナー分子であるポリヘキシルチオフェン(P3HT)と組み合わせてバルクヘテロジャンクション構造の素子を作成し、光電変換特性を調べた。変換効率(0.04%)は低いものの電池として駆動することがわかった。光電変換特性は組み合わせるドナー分子の電子構造や、分子配列に強く依存する。この他に平面性の高いチエノイソインジゴ骨格に着目し、新規なドナー分子としてチエノイソインジゴオリゴマーやポリマーを合成し、太陽電池へ応用した。その結果、チエノイソインジゴオリゴマーはフラーレン系アクセプターと組み合わせることで比較的良好な変換効率(2.4%)を示した。
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