研究課題
若手研究(B)
分子性金属酸化物あるポリ酸についてテンプレート合成法の確立を目標に、本提案はクラスター形成におけるテンプレート効果の実証、までを目指した。これにより形状や構造の設計を可能にし、暁に、分子スケールを凌駕したナノ構造体や機能性有機分子をテンプレートとした複合ナノ材料の構築が可能になる。従来の結晶化が全ての律速となる合成プロトコルでは達成困難であるが、申請者はこれまで進めてきたゲル電気泳を用いる事で解決可能になる。つまり、ゲル電気泳動によるクロマトグラフィー分析を利用すれば、合成条件の最適化や純度の評価、など、反応生成物の直接評価が可能になる。巨大リング状クラスターMo154はモリブデン酸イオンに酸と還元剤(Na2S2O4)を反応させ得られる。今回、反応pHや還元剤量を変えながら、反応溶液をゲル電気泳動によりクロマトグラフィー評価した。既知のMo154反応の条件では、確かに単一の電気泳動バンドが観察され、Mo154のみが生成物であることを確認した。しかし、他の条件では複数の電気泳動バンドが見られ、Mo154以外にも様々なクラスターが形成していることが明らかになった。テトラアルキルアンモニウムの側鎖長を1から5に順序変えながらカチオン交換を行い、反応混合液中のクラスターを単離、再結晶の後単結晶X線構造解析から構造を決定した。反応pHや還元剤量が増えるにしたがって[(SO3)2Mo18O54](4-)、[(SO3)4Mo6O15](16-)が形成していることを突き止めた。両クラスターとも、還元剤の酸化により生じるSO3(2-)イオンをクラスターの中心に含み、pHや還元剤量の増加によりSO3(2-)がテンプレートとなったためと考えられる。
1: 当初の計画以上に進展している
Mo154形成反応をモデルとし、反応pHや還元剤量によって生成物がMo154から変わることを明らかにできた。電気泳動を用いない限り、吸収スペクトルが類似な還元体ポリ酸を識別することは困難で、混合溶液か否かですら解りにくい。今回、反応条件を系統的に変え、その際に得られる化合物や副生成物の構造決定まで可能になった。この点は、当初の予定以上であった。電気泳動移動度の差はポリ酸の極性に比例し、このわずかな極性の差(水溶性である点でほとんど極性に差はない)を対カチオンとしてのテトラアルキルアンモニウムの極性の差(アルキル鎖長で制御)により拡大することで、個々の成分を混合溶液から単離することに成功した。具体的には、移動度の低いクラスターほど、極性の高いテトラメチルアンモニウムで沈殿しやすい。移動度の高いクラスターはテトラメチルアンモニウムでは沈殿せず、水溶液のままでになる。この手法は、電気泳動移動度から、分離のための対カチオン選択を可能にし、非常に応用の広い手法になると期待できる。
今後、他のリン酸などの他のオキソ酸イオンの濃度を変えながらMo154形成過程に反応させ、テンプレート効果を利用して様々なポリ酸をより選択的に形成できる可能性を模索する予定である。特に有機リン酸を用い、蛍光性や不安定な有機ラジカル種をクラスター内で選択的にカプセル化する手法創製へと発展させる
薬品に充てる経費が24年度は見込みより少なかった。研究が予想以上に進展したため、25年度は研究に従事する学生の増員を見込んでいる。そのための、試薬代・学会発表旅費に充てるために予定である。
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