金属や半導体など結晶材料の諸特性は、結晶中の不純物の種類や量により著しく影響される。特に、不純物原子/分子の材料中での拡散は、材料の変形や酸化、成分の析出などに影響する。不純物拡散の解明には、不純物が作る格子欠陥近傍の1原子/分子のミクロな拡散過程の理解が必要であるが、その直接観察は困難であり、これまで結晶のマクロ特性から拡散機構が推定されてきた。一方、荷電したコロイド微粒子が水媒体中で静電反発により形成する「コロイド結晶」は、一粒子のその場・実時間観察が可能なモデル系である。そこで、不純物粒子添加によりコロイド結晶に格子欠陥を作り、その近傍の粒子の拡散過程を光学顕微鏡観察し、マクロな不純物の挙動と比較検討することを目的とし、本研究を行った。 今年度は、エマルジョンフリー乳化重合法で合成したポリスチレン粒子/水分散系に対して、不純物として蛍光粒子を少量添加した系を対象として観察を行った。蛍光顕微鏡にハイスピードカメラを接続して粒子運動の動画を取得した。対物レンズは油浸対物レンズ(100×)を用いた。得られた動画を、二次元動画解析ソフトにより解析した。ポリスチレン粒子と蛍光粒子は混晶を形成し、格子振動を示した。格子振動においては、結晶格子の平衡位置の周りで微小な振動のみが観察されるため、通常蛍光粒子の位置は時間によらずほぼ一定であった。しかしながら粒子濃度など実験条件を選ぶことで、結晶中の不純物粒子が拡散する様子を一粒子単位で観察することに成功した。
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