研究課題/領域番号 |
24750135
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
須川 晃資 日本大学, 理工学部, 助教 (40580204)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 金属ナノ構造 / 表面プラズモン共鳴 / 銅 / アルミニウム / 蛍光増強 / 表面増強ラマン散乱 |
研究概要 |
本研究では,当該研究領域においてこれまでに活用されてこなかった,低コスト金属種(銅,アルミニウム)を用いてナノ構造体を構築し,可視領域における強局在電場の発現の実現を目指している.当該年度では,まず,これを達成するための規則性ナノ構造体を構築した.シリカ微粒子表面の界面エネルギーを利用して気/液界面上にシリカ微粒子を配列させ,これをガラス基板上に転写することで,シリカ微粒子の二次元コロイド結晶を平方センチメートルオーダーで構築することに成功した.この基板上に銅を真空下で熱蒸着することにより,規則性銅ナノ構造体を構築した. 次に,この構造体の光特性について調査した.シリカ微粒子の粒子径を350 nm以上にした場合のみ,600 nm以上の波長領域において銅の表面プラズモン共鳴が大きく発現することを見出した.通常の銅ナノ粒子では,銅の本質的な性質により,表面プラズモン共鳴が大きく減衰される.それ故,構造形態を精緻に制御することで,銅の表面プラズモン共鳴を明確に発現させることに成功したことは非常に意義深い. この構造体上で発現する局在電場特性を検証するために,蛍光プローブとしてポルフィリン分子から成る単分子膜を構造体上に形成させ,その蛍光特性について調査を行なった.結果,600 nm以上において表面プラズモン共鳴が発現した時のみ,参照とした銅薄膜上と比較して,ポルフィリンに由来する蛍光が約100倍にまで増強されることを見出した.この結果は,銅ナノ構造体上で発現する強局在電場によるものと考えられる. すなわち,当該研究領域で汎用な金な銀よりも,遥かに安価な金属種である銅で構成されたナノ構造の局在電場が,分子の分光特性を劇的に変化させるほどの強い局在電場を発現することを証明できた.以上の成果は,金属ナノ構造体の局在電場を活用する高感度光センサーチップ等の実用を加速させるものと言える.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,当該研究領域において研究例が少なく,安価な金属種である銅・アルミニウムから成るナノ構造体を構築し,表面プラズモン共鳴の可視領域への発現制御,および強局在電場の発現を実現するものである.これに伴い,①表面プラズモン共鳴の発現波長を制御可能なナノ構造体の構築(平成24年度),および②蛍光・ラマンプローブ分子との複合化による局在電場特性の解析(平成25年度),の二つのフェーズから構成される研究計画を立てた. これまでに両金属種から成るナノ構造体の構築に成功し,アルミニウムナノ構造体では,表面プラズモン共鳴特性を実験と理論の両面から調査している最中である.一方,銅では,実験により得られた表面プラズモン共鳴特性を理論的に解釈することが出来た.それ故,一つ目のフェーズについては若干の積み残しはあるものの,ほぼ遂行できている. また,銅ナノ構造体上に修飾された蛍光分子の蛍光が,大きく増強されることを見出している.この結果は,表面プラズモン共鳴に伴う局在電場が,近傍に配置された光機能性分子の分光特性を劇的に変化させるほど強いものであることを,実験的に検証出来たことを意味している.つまりは,銅に関しては二つ目のフェーズを達成しつつある.以上のことから,研究は,概ね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
銅ナノ構造体に関しては,蛍光プローブ分子の分光特性変化から,その局在電場特性について解明できつつある.今後は,銅表面/蛍光分子間の距離を精密に制御することで,銅本来の特性の一つである,蛍光分子の消光現象の誘発を出来る限り抑制し,局在電場の合目的的活用を目指す予定である.また,ラマン活性分子をプローブとしたラマンシグナルの増強特性についても合わせて検討する. この検討に用いるラマン活性分子には,銅表面の酸化を抑制する機能を有する必要があり,そのためにアルカンチオールをはじめとする種々の分子について検討を行い,最適な分子を選定する.これら分子の購入に研究費を使用する予定である. アルミニウムナノ構造体については,現在までに表面プラズモン共鳴の発現は見出されているものの,その特性は理論的解釈との不一致がある.そこで,今後は通常のアルミニウムナノ粒子が紫外領域において表面プラズモン共鳴を発現することを鑑み,まず,紫外領域で表面プラズモン共鳴を発現するナノ構造体を構築し,その特性を明らかにすることを試みる.この検討により,本研究で用いているナノ構造と表面プラズモン共鳴特性の相関関係を明らかにしたうえで,最終目的である可視領域における局在電場の発現に向けて研究を推進していくこととする.局在電場特性の解析は,銅ナノ構造体の際と同様に,蛍光プローブ分子の単分子膜を活用し,これをアルミニウムナノ構造体上に修飾し,その分光特性を解析することで達成する予定である. これを遂行するうえで,ナノ構造体を構築するための試薬,紫外から可視領域の広い波長領域における局在電場特性の解析を行うための,種々の蛍光プローブ分子の購入,およびこれらを単分子層として修飾するために必要となる試薬の購入に研究費を使用する予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
機器・試薬の購入等を通して次年度使用額は485円となった.この研究費は少額消耗品に利用する予定である.
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