研究課題/領域番号 |
24750149
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
三上 一行 東海大学, 理学部, 講師 (80433902)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 水質汚濁防止 / グリーンケミストリー / 光触媒 / アンモニア |
研究概要 |
高速で高窒素選択的にアンモニア排水を処理する高機能触媒の開発および反応条件の確立に関して今年度は主に以下の事柄が明らかとなった。 (1) 酸化チタン光触媒を用い、pHやアンモニア濃度など反応条件の変化に伴う、光触媒活性や選択性の変化を系統的に検討した。pH10の条件ではアンモニア分解速度が高く、また硝酸イオンや亜硝酸イオンの選択率が低く抑えられた。また、処理するアンモニア濃度が高い条件では、硝酸・亜硝酸イオン選択率が低下した。高い分解速度や低硝酸・亜硝酸イオン選択率は、触媒へのアンモニア吸着量の多い条件下で得られることが明らかとなった。触媒空気流通下pH10の条件では、少なくとも2000ppm程度までアンモニア濃度に対する反応次数が1に近い値を示し、比較的高濃度のアンモニアも短時間で処理できることがわかった。 (2)助触媒種やその担持量や担持法、前処理等が分解速度や選択率に与える影響を調べた。種々の金属元素で比較した結果、パラジウムを担持した時に硝酸・亜硝酸イオン選択率が特異的に低く抑えて処理できることが明らかとなった。パラジウムは励起電子を集めて酸素の還元サイトとなることに加え、アンモニアが酸化されて生じた反応中間体の酸化サイトとしても働くという、特異的な挙動をすることを見出した。また、パラジウム担持量の多い条件、光析出法でのパラジウムの担持で高分解速度・低硝酸・亜硝酸イオン選択率が得られることがわかった。 (3) 酸化チタンを高表面積あるいはポーラスな担体に担持し、その効果について検討を行った。活性炭や各種ゼオライトで比較した結果、モルデナイトに酸化チタンを担持した試料で、高分解速度、低硝酸・亜硝酸イオン選択率が得られることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書に示した、高速で高窒素選択的にアンモニア排水を処理する高機能触媒の開発や探索および反応条件の確立に関する検討は概ね予定どおり実施し、多くの新たな知見を得ることができた。その一部は学会や学術論文ですでに発表し、また今後も発表する予定であり、学術的に重要な結果がこれまでに多く得られていると考えている。 高機能性触媒の開発について検討のうち、Pd助触媒の使用により、高速でかつ特異的に硝酸・亜硝酸イオン選択的にアンモニアを分解し、その原因としてPdが熱触媒的にアンモニア酸化によって生じた中間体を分解するためであるということは、初めて見出された重要な知見であり、近日中の速報誌への投稿を予定している。また、モルデナイトに酸化チタンを担持し、反応物の濃縮効果を付与することにより、高活性で、低硝酸・亜硝酸イオン選択的にアンモニアが除去される結果が得られたことから、今後担持条件の最適化や担体種の探索により更なる高機能化への展開が期待される。 酸化チタン以外の高機能光触媒材料の探索については、主にチタンを含む複合酸化物系について検討を行い、これまでにトンネル型の空間を有する特徴的な結晶構造のK2Ti6O13が高い活性を示すことを見出した。この活性は酸化チタン単独のものに比べると低いものの、結晶構造と光触媒活性の間の関連性を考察する上で重要な結果であると考えている。 反応条件の最適化により、数千ppmという比較的高濃度のアンモニアを高窒素選択的に除去できることを見出し、この系を幅広い濃度の排水処理に適用できる可能性を示すことができた。この内容について学術論文を準備中である。反応機構の解明については、今後、これまでの反応結果の速度論的な解析や反応出発原料の変更等により進めていく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
(1) Pdを助触媒としたときに、硝酸・亜硝酸イオン選択率が特異的に低く抑えられることが見出された。担持条件等の検討により更に高窒素選択的に処理できるよう改良を行う。また、Pd粒径などの存在状態と活性・選択率の関連を調べるため、CO吸着測定やTEM観察、XRD測定等、触媒のキャラクタリゼーションを行う。 (2) TiO2をモルデナイトに担持することにより反応速度の増大および硝酸・亜硝酸イオン選択率の低減効果が得られた。モルデナイトへの担持方法や担持量の検討を行い、更なる高機能化を図る。また、アパタイトなど23年度に検討していなかった担体にTiO2を担持し、その効果を評価する。 (3) TiO2以外の高機能光触媒材料の探索として、23年度は主にTiを含む複合酸化物系で検討を行い、K2Ti6O13が比較的高い活性を示すことを見出した。本年度は、主にNbやTaを含む複合酸化物を対象として、アンモニア分解に対して高い活性を示す光触媒材料の探索を進める。 (4) 23年度に行った反応条件(アンモニア濃度,触媒濃度,酸素圧)を変えて行った反応結果から速度論的な解析を行っていく。また,気相中成分,液相中成分の詳細な定量や,中間体と推測される物質を出発物質とした反応の実施等により、反応機構の解明を進めていく。特に、Pdを助触媒とした場合、Pdが還元と酸化の両方の反応に関与する特異的な挙動をすることが、これまでの実験結果から推測されるため、Pd上で起こる反応について注目していく。 (5) 反応溶液中に存在する、金属イオン・陰イオン・有機物等の共存物質が、光触媒活性、選択性に与える影響を調査し、排水処理適用時の課題を明らかにする。強い阻害成分がある場合には、その対処法を考案する。
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次年度の研究費の使用計画 |
(1) 助触媒のパラジウムの存在状態により選択率に変化が見られたため、金属分散度の評価を行うことを予定している。その評価装置(CO吸着測定装置)の作製に必要な記録計や管状電気炉、装置部品(バルブ、ジョイント等)、消耗品(ガラス管、シリンジ等)の購入を予定している。 (2) 生成物の定量で用いる液体クロマトグラフィー用の送液ポンプの購入を予定している。 (3) 消耗品として、触媒調製関連(光触媒材料、助触媒金属等)や生成物の定量関連(還元カラム、発色試薬、分析カラム等)の試薬、触媒の前処理や反応・分析操作で用いるガラス器具、各種分析装置関連器具(ジョイント,シリンジ,フィルター、光源ランプ等)の購入を予定している。 (4) 研究成果公表のための学会参加時の旅費としての使用を予定している。 なお、今年度の約20万円の繰越金は、購入予定だったキセノンランプ光源装置一式と同様な機能をもつ、より安価な機種に変更したことにより生じた。
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