平成25年度はmRNA上のレアコドンによって翻訳速度が低下することが知られているCATIII遺伝子をターゲットとして翻訳の異常終結反応を評価した。具体的に、N末端にT7タグが融合したCATIII配列内に、ストール部位としてストップコドン(UAG)を導入したmRNAを設計した。作成したmRNAを用いて、T7-tag 抗体を固定した QCM セル内で無細胞翻訳を行うことで、T7-tag 融合 CATIII を提示したリボソームを基板に結合させた。その後、UAGストップコドンを認識するサプレッサーtRNA(tRNA Ser )を添加し、翻訳反応の再開を観察、評価した。その結果、mRNA 末端の UGA ストップコドンを認識する RF2 を予め添加しておくと、tRNA Ser 添加からしばらくして振動数が増加した。これはストール部位で一時停止していたリボソームが翻訳反応を再開し、基板から解離したためである。CATIII の様々な位置にストール部位を導入し、翻訳の一時停止と再開を観察すると、CATIII配列内のレアコドンクラスターの終盤のコドンにおいて顕著に翻訳再開速度が増加した。つまり、レアコドンクラスター領域通過により一度低下したリボソームの翻訳速度を、その領域の最後で回復させる効果があることを意味した。これらの結果より、mRNA上の配列は翻訳速度を低下させる他にも、一度停滞して異常終結しそうなリボソームを活性化するような情報も含まれていることが示唆された。 以上、2箇年の成果により翻訳異常終結の起きやすさと翻訳再開効率はmRNAの配列に大きく依存することが分かった。今後は翻訳反応に対するtRNAの取り込みによる直接的な影響や新生ポリペプチド鎖とリボソームの相互作用などアロステリックな効果について検討することで、詳細なメカニズムが決定できると考えられる。
|