フェリチンは中空の球状構造をしたタンパク質であり、内部に大きな空間を保有することから、ドラッグキャリアへの応用が期待される。フェリチンをドラッグキャリアに利用するには内部空間への薬剤の出し入れを制御する必要がある。そこで、タンパク質の部位特異的変異導入と化学修飾を組み合わせた方法により、内部空間と外部を繋ぐチャンネルのサイズを外部刺激に応答して可逆的に変化させる仕組みをフェリチンに賦与することを目的として以下の2つの方法で研究を展開し、成果を得た。 (1)光に応答してチャンネルを拡大するため、チャンネルの構造安定性に関与するLeu110-Leu134間の疎水性相互作用をフェリチン表面にLeu110を挟み込むようにして結合させたアゾベンゼンリンカーの光異性化により断ち切る仕組みの構築に取り組んだ。作成したアゾベンゼン修飾フェリチンの光反応では、目的に反してアゾベンゼンリンカーの光異性化によりチャンネル付近の構造が安定化することがCDスペクトルにより明らかになった。目的に反する結果だが、アゾベンゼンリンカーの光異性化によりチャンネル付近の構造に影響を及ぼすことが可能であることがわかったので、今後アゾベンゼンリンカーやフェリチンの分子設計を工夫する事で、目的の達成が期待される。 (2)上部に蓋になる大きな分子を着脱することでチャンネルを可逆的に縮小する仕組みの構築に取り組んだ。まずは簡略化のため可逆的な着脱を省き、蓋となる大きな分子としてアルキル鎖をチャンネル周囲に直接結合させたフェリチンを作成し、チャンネルの縮小を評価した。鉄酸化物コアを内包するアルキル鎖修飾フェリチンに還元剤を作用させ、鉄酸化物の還元速度を測定した。その結果、アルキル鎖長が長いほど還元速度が減少し、アルキル鎖がチャンネルを縮小し、還元剤の分子内部への侵入を妨げていることが明らかになった。今後はアルキル鎖を可逆的に着脱させることで、仕組みの完成が期待される。
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