研究課題/領域番号 |
24750161
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岡本 亮 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (30596870)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | 糖タンパク質 / ペプチド-グアニジド |
研究概要 |
本研究では、偽-ラセミタンパク質結晶化法による糖タンパク質の効率的な立体構造解析法の確立を目的とし、初年度の計画として、標的糖タンパク質である、N-結合型糖タンパク質CD58と抗凍結作用をもつO-結合型糖タンパク質であるAntifreezed glycoprotein (AFGP)の合成ルートの確立を検討した。 CD58についてはまず、大腸菌発現法を利用した半化学合成法によって合成を検討したところ、発現効率が極めて悪く、必要とする原料ポリペプチドが得られなかった。そこで、当初の計画に基づき、純化学的手法による合成検討も行ったが、既存の手法では、鍵誘導体として必要なペプチド-チオエステル体を得る事が出来なかったため、新規にペプチド-チオエステル合成手法の開発を行った。この結果、一般的なペプチド固相合成法を基盤として、Cys残基側鎖に導入したチオカルボニル基と、ペプチド主鎖のアミド結合の分子内相互作用によるアミド結合の開裂を利用した新しいペプチドC末端の活性化法と、これを用いた、簡便な新規ペプチド-チオエステル体合成手法の開発に成功した。現在この新規手法を用いて、CD58合成に必要な原料ペプチド-チオエステル体の合成を検討中である。 一方AFGPの合成では、鍵となるAla-Thr(GalNAc)-Alaの30回繰り返し構造について、当該研究者が独自に開発した、C末端にグアニジド基を有するペプチド誘導体を原料に用い、その効率的な合成に成功した。合成品はCDスペクトル解析を用い、目的とするAFGP様の構造をとっていることを確認した。 以上の手法は、本研究を進める上でも有用なだけでなく、現状のタンパク質合成の制限を解決し広汎に利用可能な手法である。現在これらの投稿論文を準備中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の一年目の目標は、CD58、AFGPの合成手法の確立としていた。結果、当初の計画に対して、70%程度の達成度であると考えている。以下にその理由を示す。 まずCD58については、当初、第一案の合成法としていた半化学合成法、第二案の合成法としていた純化学的手法での合成についても、良好な結果が得られなかった。これらは、タンパク質合成科学における一般的な問題であったため、新たに基盤となる新技術の開発を行った。この結果、新規なペプチド-C末端活性化法を用いたペプチドチオエステル体合成法の開発に成功した。これによって、CD58合成手法の基盤ができたものと考えている。従って今後これを用いた合成ルートの検討が必要であることを考え、達成度の観点では 60%程度であると考えている。 一方AFGPについては、30箇所以上の糖修飾を受けた糖タンパク質であり、一般的観点からみても本合成手法の確立については困難が予想された。しかしながら、これに反して、グアニジド基をC末端に有したペプチド鎖を利用した、効率的でユニークな合成ルートの確立に成功した。これにより結晶化のために必要な十分量の原料(10 mg程度)を得るための量産体制が整った。さらにこの誘導体を用いることで、自在にペプチド鎖の連結を行い、目的とする高分子量(13 kDa)の糖ポリペプチド鎖の合成に成功した。現在、結晶化のために必要な、Dアミノ酸によって構成された誘導体の合成にも着手している。以上を考えるとAFGPについては合成ルートの確立には成功しているため、80%程度の達成度といえる。 以上全体としては70%程度の達成率であり、おおむね順調に進んでいると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
1年目の研究実施の結果、より困難が予想されたAFGPの合成法についてはほぼ確立できた。当初、2年目の計画としては、合成糖タンパク質の結晶化であったため、まずはこのAFGPの合成(および量産)に注力し、結晶化とその構造解析へとつなげていきたいと考えている。具体的には、H25年度半年以内に十分量のAFGP(10 mg程度)および、D-アミノ酸を有した誘導体の合成が達成できる見込みであり、かつ結晶化のスクリーニングをスタートできると考えている。この後、今年度末までには実際のX線結晶構造解析に着手する予定である。一方CD58については、一年目に確立した新規手法をベースに、再度合成の検討を行う予定である。 本研究の最終的な目標は、偽―ラセミタンパク質結晶構造解析法による化学合成糖タンパク質の立体構造解析である。結果として得られるアウトプットとしてインパクトが大きいのはAFGPの構造解析であると考えられる。この理由はAFGPが発見されて後、40年以上経過した現在でも結晶構造が得られていない事に加え、AFGPは30カ所以上の糖結合部位を有した糖タンパク質でありこのような分子の結晶構造解析は、過去に例を見ないためである。従って、現状このAFGPの合成は良好な結果が得られているので、H25年度の研究推進計画としては、AFGPの合成、およびその結晶構造解析を最優先課題と考えている。また、ラセミタンパク質結晶化法では比較的大きなタンパク質結晶が得られる事が多いため、まずは当該研究室所属の研究機関に属するX線装置で予備的な解析を行う予定である。この後spring-8での構造解析を行う事を計画している。
|
次年度の研究費の使用計画 |
二年目の計画としては、引き続き糖タンパク質合成が必要であるため、固相合成に必要な各試薬、溶媒が必須となる。これについて、D-アミノ酸、L-アミノ酸誘導体および糖-アミノ酸合成に必要な試薬等について、25万円、固相合成用樹脂および縮合剤やその他のFmoc、Boc固相合成法用双方に必要な試薬が必要であることを考慮にいれ、20万円を計上した。また、用いる溶媒については、固相合成の際の洗浄操作に必要な溶媒量と、HPLCによる分析、精製に必要な溶媒量を考慮し、35万円を計上した。HPLCの分析の際に必要なカラム類も消耗品であり、これについては10万円を計上した。次年度に必須となる結晶化スクリーニングキットについては、初年度に購入を行うことができたため、消耗品の補充だけと考え、10万円を計上している。本研究は糖化学だけでなくペプチド、タンパク化学においても非常に大きなインパクトを与える研究であり、ペプチド化学、糖化学双方に於いて国内外を問わず発表を行う必要がある。また次年度(H25年度)は外部でのX線回折測定(複数回必要)も含めた旅費も考慮し、25万円を計上した。合成手法確立後のルーティン作業のための研究補助についての人件費の予定額として5万円を計上している。
|