研究課題/領域番号 |
24750167
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
遠藤 玉樹 甲南大学, 先端生命工学研究所, 講師 (90550236)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | RNA / 構造変化 / 低分子リガンド / リボスイッチ / SELEX / 転写反応 / 新生RNA構造形成 |
研究概要 |
本研究では、転写反応と共に進行する新生RNAの構造形成過程(co-transcriptional folding)に着目し、特定のRNA結合性リガンド分子を用いてRNAの構造遷移速度制御を行う。本年度は、特定の化合物に応答して構造を変化させるRNA構造スイッチの獲得と、転写伸長反応の進行に伴うRNA構造変化を検出する手法の構築を試みた。 まず、特定の化合物(テオフィリン、テトラサイクリン、ネオマイシン)に応答して構造を変化させるRNAを獲得するために、天然のRNA構造スイッチとして知られるリボスイッチを模倣したRNA配列を設計した。構造遷移の前後で塩基対形成の相手鎖を変化させるスイッチング領域にランダムな塩基配列を導入し、リガンド分子に応じて構造変化を示すRNAを選択的に獲得した(PLoS ONE, 8, e60222 (2013))。獲得したRNAの塩基配列を決定して構造遷移前後でのRNA二次構造を予測したところ、選択によって獲得された配列領域が二次構造変化に大きく寄与することが予測された。獲得されたRNAは、構造遷移後に蛍光修飾ペプチドや発光タンパク質と結合することで光シグナルを増大させることができるため、今後、細胞内で転写されたRNAの、構造遷移過程の検出への応用も期待される。 RNA構造スイッチの獲得を進める一方、転写反応過程の継時的な検出法の開発も行った。プロモーターの下流に上述の蛍光修飾ペプチドや蛍光分子に結合するRNAの配列を配置した鋳型DNAを作製し、転写反応を行いながらRNAと蛍光修飾ペプチドもしくは蛍光分子の結合に伴うシグナル変化を継時的に測定した。その結果、RNAの転写反応をリアルタイムに検出できることが確認された。これにより、転写反応に伴う準安定構造から最安定構造への構造推移を継時的に解析するための技術基盤を構築することができた(論文未発表)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、転写直後の速度論的に有利なRNAの準安定構造から、熱力学的に有利なRNAの最安定構造への構造遷移過程を考慮し、RNAの生合成過程において効率的に機能するRNA構造スイッチの設計・構築指針を得ることを目的としている。そのために、(1)熱安定性を予測可能なヘアピン構造などを用いて、3’側に5’側よりも安定なRNA構造を配置し、転写直後からのRNAの構造遷移速度を評価する基礎解析、(2)5’側にリガンド分子に結合するRNA、3’側にアウトプットシグナルを発する機能性RNAを配置したRNA構造スイッチを設計し、5’側に結合する分子を用いて3’側のRNAの機能発現の調節を試みる。 (1)の基礎解析については、新生RNAと蛍光性リガンド分子との結合を利用することで、転写反応のリアルタイム解析を可能にする解析法を確立することができた。今後、5’側に様々な熱安定性を有するRNA配列を配置し、蛍光性リガンドと結合してシグナルが変化する過程を継時的に評価することにより、5’側のRNA構造の安定性を考慮したRNA構造スイッチの設計に活かすことができると考えられる。 (2)のリガンド分子に応じたRNA構造スイッチの構築については、ランダムな塩基配列を導入したRNAから、特定のリガンド分子に応じてRNA構造を変化させるRNAを取得することに成功した。現在のところは、転写後の完全長RNAを用いてRNA構造変化の検討を行っているが、(1)で確立した転写反応のリアルタイム解析を併用することにより、5’側に配置したRNAへの特定リガンド分子の結合が、新生RNAの構造遷移速度にどの程度影響を与えるのかを解析できると考えられる。 以上の研究成果ならびに進捗度合いから、研究課題の達成に向けて順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究において、新生RNAに結合する蛍光性リガンドの蛍光シグナルを用いて、転写反応をリアルタイムに解析する技術基盤が整った。そこで、様々な安定性を有するRNA構造を転写されるRNAの5’側に配置し、転写直後の準安定構造からのRNA構造遷移を解析する。まずは、構造安定性を予測可能なヘアピンRNA構造を中心に研究を進めるが、その他のRNA構造(シュードノット構造や四重鎖構造など)を準安定構造として5’側に形成するようなRNA配列を設計し、熱安定性と構造遷移速度の差異を検討することも視野に入れる。 リガンド分子に応じたRNA構造スイッチの設計・構築においては、ネオマイシンに応答するRNA構造スイッチとして獲得されたRNAの二次構造予測から、構造変化の前後での熱安定性の差(ΔΔG)を見積もることができている。そこで、構造変化の前後でのΔΔGを考慮しつつ、ネオマイシンに結合する5’側のRNA領域をその他のリガンド分子(アデニン、チアミンピロリン酸、S-アデノシルメチオニンなど)に結合するRNA構造に置き換え、様々なリガンド分子に応答するRNA構造スイッチの構築を行う。これらのRNA構造スイッチについて、転写反応完了後の完全長RNAが示す構造変化と、転写反応と共に進行するRNA構造変化とを、特に構造変化速度に着目しつつ比較を行う。そして、上述の基礎解析から得られる知見とも合わせて、転写直後の準安定構造の熱安定性を特定のリガンド分子の結合により変化させ、3’側に配置させる機能性RNAの効率的な機能制御を可能にするRNA構造スイッチの配列設計へと利用する。さらには、このようにして設計したRNA構造スイッチを、特定のリガンド分子を検出するためのバイオセンサーなどへ応用する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度の研究計画として、転写反応に伴う新生RNAの構造遷移過程のリアルタイム検出法を確立し、様々な熱安定性を有する準安定構造からの構造遷移速度の解析を中心に研究を進める予定であった。そのために、転写用の鋳型DNAを作製するためのDNA委託合成費を物品費用として計上していた。こちらの研究については、転写反応をリアルタイム検出するための技術基盤を整える事が出来たが、転写後RNAの構造遷移過程を検出するまでには至っていない。一方で、リガンド分子の結合に応じて構造変化を示すRNA配列の獲得が順調に進み、「RNA構造スイッチの獲得と光シグナルによる特定分子の検出」という研究成果としてまとめることが出来た。本研究課題では、リガンド分子の結合による新生RNAの転写段階におけるRNA構造スイッチの制御を2年目の研究展開として想定していたため、2年目での研究課題の一部を本年度に進めることができたことになる。リガンド分子の結合に応じて構造変化を示すRNA配列の獲得では、多種類のDNAを合成する必要がなく、初年度のDNA委託合成費として予定していた研究費用が一部未使用のままとなった。 次年度は、上項目にある今後の研究の推進方策に合わせ、転写反応後のRNA構造遷移の基礎解析と、RNAのco-transcriptional foldingに着目したRNA構造スイッチの設計・機能化(バイオセンサーなどへの応用)を順次進める。研究費の多くをDNA委託合成費・転写関連試薬・蛍光検出関連試薬などの試薬消耗品に充て、一部を研究成果の論文掲載費、学会等における研究成果発表のための旅費として使用する。
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