本研究では、転写反応と共に進行する新生RNAの構造形成(co-transcriptional folding)に着目し、RNA構造遷移の制御を行う。 これまでに、リガンド分子の結合に応じて二次構造を変化させるRNAをセレクションにより獲得した。本年度は、様々なリガンド分子に応答して二次構造変化を示すRNAを、構造変化の前後での熱安定性の差を考慮して合理的に設計した。そして、設計したRNAをリガンド分子の存在下で転写し、転写反応に伴うRNA構造変化を、構造変化後のRNAに結合する蛍光標識ペプチドを用いて検出した。その結果、リガンド分子の濃度に依存して速度論的にRNA構造が変化することが示された。一方で、転写後に精製したRNAでは、構造遷移するための活性化エネルギーが大きく、リガンド分子存在下でもRNA構造が変化しなかった。つまり、co-transcriptionalにリガンド分子がRNAに結合することで、転写反応後のRNA二次構造を制御することができた。 一方で、四重鎖構造と二次構造を形成し得る配列が重なっている大腸菌由来のEutE mRNAを用いて、転写反応直後に形成される準安定なRNA二次構造から最安定な四重鎖構造への構造遷移過程を解析すると共に、四重鎖構造による翻訳反応への影響を評価した。その結果、希薄な溶液環境で転写した場合は準安定なRNA二次構造が維持されるのに対し、細胞内を模倣した分子クラウディング環境では、経時的に再安定な四重鎖構造へ構造遷移することが示された。さらに、準安定なRNA二次構造が維持されている状態では、四重鎖構造が原因となる翻訳反応の停滞が起こらないことが明らかとなった。細胞内では、四重鎖構造による遺伝子発現量の低下が起こっていたことから、分子クラウディングという環境が準安定構造から最安定構造への構造遷移に重要な役割を果たしていることが示唆された。また、RNAのco-transcriptional foldingを制御することで、翻訳反応制御技術への応用の可能性が示された。
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