研究課題/領域番号 |
24750168
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
建石 寿枝 甲南大学, 先端生命工学研究所, 助教 (20593495)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 極限環境 / イオン液体 / 分子クラウディング / 核酸構造 / 熱力学的安定性 / 相互作用パラメータ / ミスマッチ塩基対 / ワトソン・クリック塩基対 |
研究概要 |
本研究は核酸を材料として活用する際の分子環境である細胞内やチップ基板上の“超クラウディング環境”やイオン液体中の“超高塩濃度環境”などの“極限環境”が核酸に及ぼす効果を定量的に解明することを目指す。 本年度はまず、核酸と直接相互作用しないポリエチレングリコールや多糖等の共存溶質や核酸の水和圏と相互作用するグリセロール等の共存溶質20~50 wt%を標準溶液(1 M NaCl緩衝溶液)に添加し、細胞内の超クラウディング環境を構築した。この環境下におけるDNA及びRNA二重鎖のワトソン・クリック塩基対やミスマッチなどの非塩基対部位に及ぼす超クラウディング環境の効果を解析した結果、分子クラウディング環境における塩基対部位の安定性は、塩基対部位の水和構造によって決定されていることを見出した(Biophysical Journal, 102, 2808(2012))。 さらに、ナノテクノロジー分野での活用が期待されているイオン液体による超高塩濃度環境も構築し、核酸二重鎖構造に及ぼす影響を解析した。イオン液体は核酸を長期間安定に保存できることが知られているリン酸二水素コリンを用いた。その結果、通常の水溶液では、核酸二重鎖内のワトソン・クリック塩基対のG-C塩基対はA-T塩基対より安定であるが、超高塩濃度環境下では、A-T塩基対の方がG-C塩基対より安定化することが示された(Angew. Chem. Int. Ed., 51, 1416 (2012) [裏表紙に掲載、WILEY のGreen chemistryの分野におけるHot topicに選出された]、 朝日新聞2012年掲載)。また、イオン液体とDNAの相互作用を熱力学的及び分子動力学的手法によって解析した結果、超高塩濃度環境下における安定性の変化は、コリンイオンが核酸塩基それぞれに対して異なる結合性を示すためであることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、極限環境下での核酸の高次構造安定性を評価し、予測できるデータを蓄積することを目指す。そのために、(a) 極限環境下の構築、(b)核酸構造に及ぼす極限環境の効果の定量的解析、 (c) 極限環境の効果を溶液の物性から定量化することを試みる。 本年度は(a) 及び(b)を中心に研究を遂行した。具体的には、擬似細胞内環境中の“超クラウディング環境”及びイオン液体中の“超高塩濃度環境”を構築した。そして、極限環境下での核酸の高次構造形成エネルギーを熱力学的手法により算出した。解析対象とする核酸は、構造解析及び極限環境条件でも取り扱いが容易なDNAの二重鎖を中心的に用いた。具体的な実験法として、まず、紫外可視分光光度計、円二色性分散計により、DNAの融解曲線を測定し、DNA二重鎖の熱力学的パラメータ(ΔHo、ΔSo、ΔGo37)を算出し、極限環境の効果を定量的に解析した。本年度は、複雑な極限環境の効果を解析対象とする核酸をシンプルなDNA二重鎖にし、算出されたパラメータを既存の核酸高次構造予測パラメータが算出された標準溶液 (1M NaCl溶液)と比較することで、複雑な環境効果を定量的に解析することに成功した(Angew. Chem. Int. Ed., 51, 1416 (2012)、Biophysical Journal, 102, 2808-2817(2012))。これらの知見は、極限環境下におけるRNA高次構造を定量的に解析するための基礎的知見となると考えられる。 二年間で遂行する本研究課題において、初年度はシンプルなモデル核酸を用いて、極限環境の影響を定量化する手法の最適化、及び基礎的パラメータの蓄積を試み、現在までのところ当初の計画通り順調に成果を上げている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は対象とする核酸構造を二重鎖だけでなく、三重鎖、四重鎖構造及び複雑な高次構造を持つ機能性RNAへと拡張し、極限環境の効果について定量的に解析する。実験はサーマルサイクラ―(平成24年度に購入)を用いて前準備を行い、紫外可視分光光度計などによって種々の極限環境における高次構造形成エネルギーを算出する。長鎖の核酸構造のFoldingに関しては、デジタル屈折計(平成24年度に購入)によって得られた情報を基に動的光散乱測定装置を用いて解析する。また、今年度に構築した極限環境に加えて、超クラウディング環境としては細胞内環境を模倣したポリエチレングリコールなどの中性分子だけでなく、細胞小器官や脂質による特殊環境をリポソームなどの擬生体膜で模倣した環境を、超高塩濃度環境としては、ナノテクノロジー分野で活用されているイオン液体である1-エチル-3-メチルイミダゾリウムブロミド等を用いて極限環境を構築する。 さらに、溶液の物性パラメータ(水や溶質の活量、誘電率、粘性、表面張力など)を測定し、極限環境の物性と核酸の構造安定性変化の相関関係を模索する。また、核酸は負電荷の高分子であるため、溶液中のカチオンと結合し、この結合は核酸構造の安定性に大きく寄与していると考えられる。そのため、極限環境中(とくにイオン液体による高塩濃度環境)のカチオンと核酸の結合数及び様式を、熱力学的及び分子動力学的アプローチを用いて解析する。これらの定量的パラメータ及び分子レベルでの相互作用データを蓄積することにより、極限環境での核酸高次構造に関する統一的な法則を見出すことを目指す。 さらに、イオン液体は環境的、工業的観点からナノバイオテクノロジーへの応用が期待されている液体であるため、イオン液体と核酸の相互作用を活用したDNAセンサーなどの開発にも着手する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は2012年7月20日から10月1日まで産前産後休暇を取得したため、研究の進捗に応じて消耗品の購入をやや控えた。また、アステック社製・サーマルサイクラーGeneAtlas E05(595,000円)の購入を予定していたが、アステック社のキャンペーンのため、同社の上位機種GeneAt 1 as G05を安価(426,195円)に購入することができた。これらの理由により、平成24年度の経費に139,947円の未使用額が生じた。 平成25年度は解析対象となる合成核酸やイオン液体、及び核酸の構造解析のために円二色性測定装置および蛍光光度測定装置用のセル(約100,000円)購入し、迅速に研究を遂行する。そのため、平成24年度の未使用額と合わせて、約954,947円を消耗品として使用する予定である。また、本研究の成果を対外的に公表するため、学会等の旅費など200,000円を計上している。その他、外国語論文の校閲費や印刷費として85,000円を計上している。
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