研究概要 |
本年度は対象とする核酸構造(DNA及びRNA)の二次構造から高次構造(三重鎖、四重鎖構造)へと拡張し、極限環境の効果について定量的に解析した。極限環境としては、ナノテクノロジー分野で活用されている水和イオン液体(リン酸二水素型コリン、choline dhp)である超高塩濃度環境および細胞内環境を模倣したポリエチレングリコール(PEG)などの中性分子や、細胞小器官や脂質による特殊環境をリポソームなどの擬生体膜で模倣した超クラウディング環境を構築した。 まず、紫外可視分光光度計などによって超高塩濃度環境下における核酸高次構造形成エネルギー解析した。三重鎖はワトソン・クリック[W・C]塩基対とフーグスティーン [H] 塩基対を持つが、標準溶液(NaCl水溶液)と比較してcholine dhp中では良好なエンタルピー変化によりH塩基対が大きく安定化された。さらに、分子動力学的計算によって、このような安定化は三重鎖のグルーブ部位へのコリンイオンの結合によることがわかった(Sci. Rep., 4, 3593 (2014) [日刊工業新聞に掲載])。 一方で、超クラウディング環境において、核酸構造を解析したところ、PEGは四重鎖構造を安定化させるが、リポソームの表面上などでは四重鎖が不安定化することがわかった(Methods, 67, 151 (2014)など)。これらの安定性の変化は、超クラウディング環境下での水の活量や誘電率の低下によって、核酸の水和構造や膜表面では1本鎖の核酸構造が影響を受けることが原因であると推察された。さらに、転写過程において、鋳型DNA中に形成されるDNA高次構造によって転写が中断されるが、転写の中断を超クラウディング環境下における核酸高次構造形成エネルギーから予測できることも見出した(PLoS ONE, 9, e90580)。
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