研究課題/領域番号 |
24750176
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
NEWTON Graham 筑波大学, 数理物質系, 助教 (70615244)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ポリオキソメタレート / ハイブリッドPOM / 双安定性 / シアン架橋 / 配位高分子 / Dawson型 / 鉄錯体 / スピンクロスオーバー |
研究概要 |
本研究ではポリオキソメタレート(POM)を機能性錯体に連結し、高次機能の発現を目指して研究を行った。POMは非常に優れた光化学的性質や酸化還元能を示すことが知られている。電子的に共役した有機配位子をもちいて、POMとスイッチング可能な錯体分子を連結することで、物性の相乗効果や多重双安定性を示す機能性物質の構築が可能であると考えられる。これらの新しい機能性ハイブリッド材料は近未来の分子エレクトロニクスである、分子回路やナノサイズのデータ記憶媒体、さらに太陽光テクノロジーといった、幅広い分野への応用が期待される。本研究では、アミド誘導体多座配位子を3つのV(V)でキャップされたDawson型POMに結合させたハイブリッドPOM配位子を合成し、さらに遷移金属イオンと反応させたハイブリッドPOM-遷移金属錯体の構築を試みた。遷移金属イオンとして、スピンクロスオーバー現象を示すFe(II)イオンを選択し、錯体合成を行った。電子的相互作用の有無を確かめるため、共役した連結様式を持つハイブリッドPOMー鉄錯体および、非共役系の錯体を合成した。どちらもハイブリッドPOM配位子とFe(II)イオンが2:1の比で連結された化合物が生成したことを、構造解析・各種スペクトル・ESI-MS等から明らかにした。中心のFe(II)イオンの電子状態は共役系・非共役系で異なっており、ハイブリッドPOM配位子とFe(II)イオンの相互作用の存在が示唆された。スピンクロスオーバーを示すハイブリッドPOMとしては初めての例である。さらに得られた化合物のPOM部位の光還元による物性変化について検討し、機能性ハイブリッド錯体分子としての評価を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
POMと有機分子を連結したハイブリッドPOMは近年見出された新しい物質系であり、POMと有機分子の利点を生かした機能性分子・触媒の開発が期待されている。本研究では、3つのV(V)イオンをもつDawson型POMを選択し、アミド誘導体配位子を結合させた新規ハイブリッドPOMを合成した。配位子として、POM部位に連結することができる酸素原子配位部位と第一遷移金属イオンに3座のfac様式で結合可能な窒素原子配位部位を有する分子を設計合成した。POMとの連結部位は、共役系または非共役系の連結が可能な2種類の分子を設計した。ハイブリッドPOM配位子を単離し、第一遷移金属イオンとしてFe(II)イオンを選択したハイブリッドPOMー鉄錯体の合成を行い、構造解析・各種スペクトル・ESI-MSによって同定した。共役系のハイブリッドPOMー鉄錯体ではFe(II)イオン部位に比較的強い配位子場が提供され、室温以上でスピンクロスオーバー挙動を示すことが明らかとなった。一方で、非共役系ハイブリッドPOMー鉄錯体は比較的弱い配位子場となり、Fe(II)イオンは温度によらず高スピン状態を持つことが明らかとなった。POM部位は光還元能を持つため、光によるスピンクロスオーバー挙動の制御について検討を行っている。本研究ではその他のハイブリッドPOM配位子の開発も検討しており、POM部位をLindqvist型POMに変換したハイブリッドPOM配位子や3座窒素原子配位部位を2座に変換した化合物についても検討を行った。
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今後の研究の推進方策 |
ハイブリッドPOMは、特異な酸化還元挙動・光物性を持つPOMと、修飾が容易であり、様々な機能・物性を発現しうる有機分子が連結したものであり、POMと有機分子間の電子的な相互作用が発現するため、精密な分子設計によって、従来の無機材料・有機材料を凌駕する新しい分子性材料となりうる。本研究の特色として、有機分子としてPOMと連結可能な部位と遷移金属イオンに配位可能な部位を有していることが挙げられる。このようなハイブリッドPOMの設計指針を確立するために、今後、POMの種類の変換および遷移金属イオンとの配位部位の変換を行い、様々なハイブリッドPOM配位子を構築する。特に、Lindqvist型POMやビピリジン系2座配位子などの導入を試みる。様々なハイブリッドPOMをもちいて、POMとの電子的相互作用を有効に物性に反映できる集積型錯体を合成する。POMの光還元に基づく電子移動を利用し、水の酸化触媒や二酸化炭素の還元触媒が可能なハイブリッドPOM-錯体を合成する。具体的な研究方法としては、化合物合成ー同定、電気化学的性質の評価、磁性評価、光反応の検討を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の研究では、合成と物性測定を行うため、試薬・ガラス器具・寒剤等の消耗品費に重点を置いて研究費を計上した。合成では、嫌気下での操作が必要になると考えられるので、シュレンク管や真空ラインなどの特殊ガラス器具を購入する。試薬としては、POMやピリジン系前駆体を購入する。合成には脱水・脱酸素溶媒をもちいる必要があるため、乾燥剤や蒸留装置等も購入する。さらに、マイクロ波合成装置を使用するため、消耗品として専用の合成セルを計上した。物性測定では現有設備である単結晶X線構造解析装置やSQUID磁束計などをもちい、構造決定や磁気的性質の解明を行う。データ解析に必要な科学計算ソフトや端末も購入する。研究成果は、錯体化学会討論会または日本化学会春季年会において成果発表するため、旅費を計上した。 平成24年度の未使用額1,321,538円については、平成25年3月に納品済みの電気化学測定オプション付き光ファイバー型紫外可視吸光光度計の購入で既に使用しているが、手続きが行われていないために未使用額となっている。使用後の残額はほとんどない。
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