研究課題/領域番号 |
24750177
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田中 秀幸 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 特任助教 (10585821)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 有機太陽電池 / フラーレン / 電荷移動度 / 有機エレクトロニクス / アニール効果 |
研究概要 |
有機薄膜太陽電池におけるアニール処理はエネルギー変換効率を向上する上で非常に重要なプロセス因子である.加熱アニールまたは溶媒蒸気アニール処理によるモルフォロジー変化や結晶性の向上が性能向上の要因として知られているが,分子本来の性質に由来するアニール効果はほとんど知られていない.本研究では,溶媒和結晶を用いる事で,有機薄膜太陽電池におけるアニール効果を分子レベルで明らかにすることを目的とした. 平成24年度は,種々の溶媒分子を含有するフラーレン誘導体SIMEF-oAn溶媒和結晶を生成し,その示差走査熱量測定と温度可変X線回折による構造解析を行なった.加熱温度が100-150℃の範囲で,フラーレン結晶格子からの溶媒脱離が起こり,秩序構造を示さないアモルファス相へと相転移するが,この脱溶媒による相転移が太陽電池特性,特に短絡電流密度Jscを向上させる要因となる事を明らかにした.熱アニールによってアモルファス化したフラーレン誘導体を用いた有機薄膜太陽電池素子は5.4%のエネルギー変換効率を示した。 また,ドロップキャスト法による溶媒和結晶薄膜の作製を行った.空間電荷制限電流法で見積もられるキャリア移動度と太陽電池特性を比較した所,熱アニールによって変化するフラーレンの電子移動度と太陽電池特性には相関関係がみられない事を見出した.高い結晶性に由来する高移動度特性は太陽電池にとって有利であると考えられてきたが,必ずしもそうではないことを明らかにしたものである.フラーレン相のアモルファス化による電子移動度の低下よりも,むしろ,ドナーとして用いた結晶性ベンゾポルフィリン(BP)とのドナー/アクセプター界面における密着性の方が重要である事を提示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,「有機薄膜太陽電池におけるアニール処理の本質的な効果を明らかにする」ことであり,以下4点を主目標としている.(1)溶媒和結晶の熱物性,相転移/脱溶媒過程の解明とモルフォロジー観察,(2)溶媒和結晶の電子物性解析と温度依存特性,(3)溶媒和結晶を用いた有機半導体デバイスにおけるアニール効果,(4)溶媒和結晶における溶媒分子の効果とパッキング構造におよぼす影響を調査する.これらの目標を達成すべく鋭意研究を進め,このうち1,2および3については既に目標を達成済みであり,Advanced Materials誌1編,応用物理学会有機分子・バイオエレクトロニクス分科会誌1編を論文発表している.以下,目標達成状況の詳細を述べる. (1) 溶媒和結晶の相転移:溶媒を含むフラーレン結晶を加熱すると,フラーレン結晶格子からの溶媒脱理が起こることで秩序構造を示さないアモルファス相へと転移し,さらに高温で加熱すると再び熱結晶化することがわかった. (2) 電子物性解析:溶媒和結晶薄膜では熱アニールによる脱溶媒によってキャリア移動度が有為に低くなり,さらに高温で加熱結晶化することで再び移動度が上昇することを明らかにした. (3) デバイスにおけるアニール効果:秩序構造の低下に由来する電荷輸送特性の低下を観測しており,トランジスタ素子などで報告されている従来の知見と同様のアニール効果がみられる事を確認している.一方で,太陽電池では電荷輸送特性の影響は問題とならないことを明らかにしている. (4) 溶媒分子の効果:溶媒を含むフラーレン結晶は,取り込む溶媒によって脱溶媒およびその後の再結晶過程が異なる事がわかった.取り込まれる溶媒の沸点と脱溶媒点は一致しないことから,溶媒和結晶における相転移は溶媒分子の熱物性だけでなくフラーレン結晶格子との関連性があることを示唆した.
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今後の研究の推進方策 |
SIMEF, o-An溶媒和結晶をモデル材料とすることにより,有機薄膜太陽電池におけるアニール効果を分子レベルで解明することに成功している.今後は,脱溶媒による相転移を利用した太陽電池特性の向上を追求するため,溶媒和結晶薄膜における脱溶媒挙動および相転移挙動を制御するための分子設計指針を提示する事を目的とする.まず,マイクロ波光伝導度測定によるフラーレン誘導体材料のスクリーニングを行い,優れた太陽電池特性が期待されるフラーレン材料を選定する. さらに, スクリーニングと並行して溶媒和結晶を積極的に形成するための置換基導入を検討する.また,取り込まれる溶媒分とフラーレン結晶格子間に働く結合力をパラメーターとし,相転移前後の結晶性やナノモルフォロジー観察から溶媒分子に依存する相転移/脱溶媒過程を解明する.また,溶媒和結晶材料のライブラリ構築のための新規フラーレン誘導体の分子設計および合成を行なう. 一方で,ドナー材料における熱アニール効果の解明にも取り組む予定である.平成24年度は,熱アニールによるドナー/アクセプターの相分離構造の変化を最小限に抑えるため,熱的,物理的に安定な結晶性BPを太陽電池素子におけるドナー材料として用いた.BP前駆体を加熱することでエチレン分子が脱離し,次いでBP分子が結晶化することにより安定な結晶性BP相が得られるが,この熱転換/熱結晶化特性と太陽電池特性の関係は未だに不明のままである.平成25年度は,異なる熱物性を有するポルフィリン前駆体を合成し,エチレン分子の脱離を伴う熱転換特性が関連したモルフォロジー変化や結晶成長機構を明らかにする. これらの,アクセプター材料とドナー材料の熱特性を完全に制御した上で,デバイスにおけるドナー/アクセプター界面構造の制御による太陽電池性能向上を目指す.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は,材料ライブラリ構築のための新規フラーレン化合物の合成および新規ポルフィリン誘導体の合成にかかるガラス器具,有機溶媒および試薬を購入するための消耗品費を計上する. 有機デバイス作製においては,移動度測定を行なうため有機トランジスタ素子用シリコン基板,マイクロ波光伝導度測定を行なうための石英基板,太陽電池素子を作製するためのITO透明電極基板を購入するための消耗品費を計上する. 平成24年度で得られた研究成果を国内外で発信するための学会参加費,国内および外国旅費を計上する.
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