研究課題/領域番号 |
24750178
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
飯野 裕明 東京工業大学, 像情報工学研究所, 准教授 (50432000)
|
キーワード | 有機トランジスタ / 多結晶薄膜 / 液晶性 / 溶液プロセス / 熱アニール / バイレイヤー構造 / 過冷却 |
研究概要 |
平成25年度はフェニル-ベンゾチエノベンゾチオフェン誘導体(Ph-BTBT-10)の多結晶薄膜における熱アニールによる高移動度化と過冷却液晶相を用いた室温に近い温度(40℃)での均一製膜に関してその要因を検討した。 Ph-BTBT-10は70℃以上の熱アニールではON電流が大きく増加し、移動度は10cm2/Vsを越え、最大で移動度が22cm2/Vsに達した。この高移動度化の要因を調べたところ、アニール前はモノレイヤー構造であった結晶薄膜が、熱アニール後は2分子を1ユニットとしたバイレイヤー構造に変化していることがAFM、低角XRD測定より明らかになった。溶液から取り出したPh-BTBT-10の単結晶構造解析、実際の多結晶薄膜においてはTOF-SIMSによる硫黄原子の深さプロファイルの測定より、バイレイヤー構造はコア部が向かい合った構造をとっていることが明らかになった。 このバイレイヤー構造を取る結晶薄膜のトランスファー積分を計算すると、レイヤー内に大きな値(約50meV)を示すだけでなく、向かい合ったコア部間にも値は小さい(約8meV)ものの有意な値を示すことがわかった。このことは、多結晶薄膜の結晶粒界において電荷輸送が困難な場合でも、その箇所をよけて電荷輸送が可能なパスが存在していることを示しており、多結晶薄膜においても10cm2/Vs以上の高移動度が実現できた要因であると考えられる。 同時に、高温域で発現する液晶相経由で作製した均一な多結晶薄膜は液晶相の構造由来のモノレイヤー構造をとるのと同様に、過冷却液晶相を用いて実現される40℃の低温製膜における均一な多結晶薄膜においても熱アニール前はモノレイヤー構造をとっており、40℃製膜で均一な結晶薄膜の作製ができた要因は、過冷却液晶相を経由したことで実現できていることが実証された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究により、目標とする室温製膜かつ移動度が5cm2/Vs以上の移動度を示すトランジスタの開発に迫る結果を得ることができた。 具体的には液晶物質であるPh-BTBT-10の多結晶薄膜において熱アニールを施すことで10cm2/Vsを超す高移動度のトランジスタの作製に成功し、さらに本材料系は過冷却液晶相を発現するために混合溶媒を選択することで室温に近い40℃での製膜で均一な結晶薄膜が作製できることを実証している。さらに、多結晶薄膜にもかかわらず高移動度が実現できる要因(モノアルキル鎖構造を持つ分子が形成するコア部が向かい合ったバイレイヤー構造を形成する点)を明らかにし、室温製膜が可能で高移動度が実現できる材料の設計指針が得られている。 現在、Ph-BTBT-10以外の液晶材料において、室温で均一製膜が可能な材料がいくつか開発されているが、目標である5cm2/Vs超える移動度を示すトランジスタ作製には至っていない。最終年度では、室温製膜で高移動度を示す有機トランジスタの実現や、さらに他の製膜プロセスとしてインクジェット法による有機半導体層のパターニングを含めて検討していく。
|
今後の研究の推進方策 |
この2年間の検討より、過冷却液晶相の発現と高移動度化の実現には、分子設計としてモノアルキル鎖構造の分子を用い、適切なアニール処理を施すことでバイレイヤー構造にさせることで、過冷却液晶相の発現による室温製膜、バイレイヤー構造による高移動度化が非常に効果的であることが明らかになった。従って、新規の材料においても、このような構造を有する誘導体を中心に検討を行う。また、低温製膜で均一な多結晶薄膜が可能であったキシレンとクロロホルムの混合溶媒に関しても、粘性の変化やリオトロピック液晶相の発現など、どのような効果でそのような均一な薄膜が作製できるのかを、低角XRD測定による、バイレイヤー構造との議論も含めて検討し、さらなる低温製膜への手法を開発する。さらには、このような知見を活かすことで、有機半導体層のパターニングをインクジェット法により検討する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
1年目に移動度の高い材料が開発できたことより、2年目は熱アニールによる高移動度化の要因や低温製膜化が実現できる要因を探るべく、当初の研究計画とは若干違い、薄膜構造の解析などの研究を重点的に行った。そのため当初購入予定の物品や消耗品は後回しになった。この2年目に明らかになった要因を考慮することで、最終年度は効率よく新たな材料の研究や、新規プロセスの研究を行うことができるようになると考えられる。 最終年度は、高移動度化、低温製膜化を実現できる、新たな材料の開発やプロセスの開発を行う。ここでは、2年目に明らかになった分子設計指針を取り入れることで、効率よく、目標以上の特性を有する新規材料や、新規プロセスの開発が実現できるものと思われる。そのために、合成のための試薬や、インクジェット用の消耗品、また、多数の材料を評価することになるために、自動でトランジスタ特性を評価する装置の開発に使用する予定である。また、温度や濃度による粘性の変化を調べることや、リオトロピック液晶の発現も含めて検討するための備品も購入する予定である。
|