研究課題/領域番号 |
24750180
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
宮田 耕充 首都大学東京, 理工学研究科, 准教授 (80547555)
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キーワード | カーボンナノチューブ / 薄膜トランジスタ |
研究概要 |
本研究は、高純度・高結晶性半導体カーボンナノチューブ(CNT)による高移動度薄膜トランジスタ(TFT)の実現に向けた、基盤技術の開発と物性解明を行っている。平成25年度は、1.より迅速なCNT分離法の確立と発光イメージングによる長さ分布の評価、2.グラフェンナノリボンを活用した新しいCNTのカイラリティ選択的成長法の開発、などを中心に進めてきた。 1.ゲル濾過を用いた半導体CNTの分離において、従来では長時間の多段階のリサイクル処理により、高純度化や長さ分離を行ってきた。より短時間での処理を可能にするため、本研究では、ゲルに吸着したCNTの溶出過程を利用した単一ステップでの分離の検討を行った。主な成果として、界面活性剤の濃度勾配を作ることで、CNTの構造や特性に依存して溶出速度が異なることを見いだした。この手法により、リサイクル処理無しに長さと電子構造で選別されたCNT試料を得ることが可能になった。さらに、この手法を用いて平均長2マイクロメートル程度のCNT試料を作製し、発光イメージングによる長さ分布の評価を行った。結果として、装置の制約から適用できる試料に制限はあるが、通常の原子間力顕微鏡をよりも遙かに高速に、長さ分布の評価が可能であることを実証した。 2.単一構造を持つCNT試料の作製をめざし、グラフェンナノリボンを利用したCNTの成長法を開発した。原料として、ペリレン誘導体を利用し、直径の大きなCNT内で熱融合させることでグラフェンナノリボンを作製した。このナノリボンを、さらに1200度の高温で加熱することで、特定のカイラル指数を持つCNTへと変換されることが明らかとなった。この結果は、ナノリボンが捻れることでCNTが成長するというモデルで説明でき、新たなCNTのカイラリティ選択的合成法の可能性を示した点で重要な成果と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、半導体カーボンナノチューブ(CNT)の純度、結晶性(長さ)、等を制御し、その伝導特性の解明と、高移動度薄膜トランジスタ(TFT)の実現を目指している。目的を達成するために、分離した半導体CNTの伝導特性評価、および高純度・高結晶性CNT試料の分離法の確立を軸とした研究を推進してきた。 平成25年度は、主に試料の作製プロセスに関する課題について進展があった。特に、試料のCNT濃度・直径分布・界面活性剤濃度、分散手法、担体の種類など多方面から検討を行い、より効率的なCNT分散・分離プロセスや簡便なCNTの構造評価法の開発などが可能になった。さらに、グラフェンナノリボンからのCNT成長など、全く新しいCNTの構造制御法の開発など、当初の予想とは異なる新しい展開も得られている。得られたCNTの基礎物性解明などが今後の課題となる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終目標は、高い移動度を持つ薄膜トランジスタの実現であるが、現状では、CNTの結晶性がボトルネックとなっていることが分かっている。これは、直接合成で得られたCNT薄膜が高い移動度を示すのに対し、分散プロセス後に形成した薄膜では、CNTの長さが短くなる共に移動度が低下しているためである。今後は、より試料の質を改善すると共に、伝導特性を大きく改善する新たな工夫や、現状のCNT試料でも可能な新しい応用などの探索的な研究も検討していく。 試料の質を改善するためのアプローチとしては、分離プロセスのさらなる最適化があげられる。特に、利用するカラムの種類・長さ・溶出条件を検討することで、長さや純度の改善された半導体CNTの分離について調べる。また、伝導特性の制御を目指した研究では、CNT内部に高い伝導性の持つと期待されているグラフェンナノリボンやカーボンチェーンなどを内包することを検討している。このような内包試料の作製技術は既に確立してきたので、これらの試料の伝導度等の特性評価を中心に進めていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度に、異動により名古屋大学から首都大学東京に所属の変更があった。主に実験室の立上げ等の理由により、研究の進行計画について変更があったため。 CNT分離やデバイス作製に必要な消耗品や試薬を中心に研究費を使用する。想定している消耗品は、カーボンナノチューブ試料、カラム担体、界面活性剤、電極用金属(金・チタン)、メタルマスク、ガラス・プラスチック機器、等である。また、共同研究打ち合わせや、学会や研究会等で発表するための国内旅費として研究費の一部を使用する予定である。
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