研究課題
本研究ではリチウムイオン電池に使われている有機電解液中の溶媒和リチウムイオンの構造に焦点を当て、リチウムイオン電池黒鉛負極特性との相関を基礎的に明らかにすることを目的とした。溶媒和リチウムイオンの構造制御のために、溶媒を変化させるのではなく、リチウムイオンとルイス酸性の異なるカチオンを添加することで溶媒和リチウムイオンの構造を制御し溶媒和構造と黒鉛へのリチウムイオン挿入可否のクライテリアを明確にすることで、溶媒和イオン構造の制御によるリチウムイオン電池の高性能化に向けた基礎的指針を得る。本年度はルイス酸としてカルシウムイオンを用いた。リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(LiTFSA)を溶解した炭酸プロピレン(PC)に種々の濃度でカルシウム塩としてCa(TFSA)2を溶解した電解液を調整した。電解液中のLiに対するCaの存在量が1.1倍以上になると、黒鉛負極へのリチウムイオン挿入脱離が可逆に起こること見出した。電解液の物性として、イオン導電率および粘度を測定したが、Ca/Liに対して特異な変化はしなかった。したがって、このリチウムイオン挿入脱離を可能にしたのは電解液のマクロな物性の変化ではないことが明らかとなった。そこで、溶媒和リチウムイオンの構造をラマン分光測定により明らかにすることを試みた。ラマンスペクトルにおいて溶媒分子であるPCのバンドとアニオンのバンドが重なるため、明確な帰属は困難であったが、溶媒和リチウムイオンの構造変化が示唆された。したがって、ルイス酸であるカルシウムイオンの添加が溶媒和リチウムイオンの構造を変化させることに有効で、その結果、リチウムイオンの黒鉛負極への挿入脱離が可能となったことが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
カルシウムイオンがルイス酸として機能することで、リチウムイオンからPCを引きつけ、溶媒和リチウムイオンの構造が変化するとの仮定のもと、本研究を行ったが、溶媒和リチウムイオンの構造変化を示唆する結果と、黒鉛負極へのリチウムイオンの挿入脱離挙動の相関が得られ、概ね順調に進展していると判断した。
次年度はカルシウムイオン以外のルイス酸としてマグネシウムイオンを用いることでルイス酸性の違いが、リチウムイオン挿入脱離挙動にどのような影響を与えるのか調べる。また、PCに替わる溶媒を用いることで、ラマン分光法を用いた溶媒和リチウムイオンの構造変化を明確にする。
該当なし
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Journal of the Electrochemical Society
巻: 159(12) ページ: A2089-A2091
10.1149/2.002301jes