研究課題/領域番号 |
24750188
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
赤池 幸紀 独立行政法人理化学研究所, 光電変換研究チーム, 特別研究員 (90581695)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 有機太陽電池 / 分子配向制御 / ドナー/アクセプター界面 |
研究概要 |
本研究では、分子配向の制御が比較的容易であると思われる液晶性有機半導体を太陽電池材料に用い、分子配向が太陽電池特性に与える影響を解明することを目的としている。研究の当初は、ホール輸送性を有する液晶性有機半導体としてβ-octakis(dodecyloxy)phthalocyanineを選び、edge-on配向とface-on配向の制御を試みた。インジウムスズ酸化物(ITO)基板上でβ-octakis(dodecyloxy)phthalocyanineのスピンコート膜を様々な温度で熱アニールし、X線回折(XRD)で配向を評価したが、edge-on配向が保持される。また、ポリビニルフェノール(PVP)犠牲層で被覆した後に熱アニールを試みたが、face-on配向を実現することは困難であった。 そのため、face-on配向を示す、新しい材料の開発を理化学研究所エネルギー変換チームと共同で進めた。その結果、分子間相互作用によって二次元シートを形成し、ITO基板やCuPc薄膜上でface-on配向をとる、新しい電子アクセプター(A1)を開発した。A1は可視部で強い吸収を示し、LUMOのエネルギーが十分に典型的なドナー分子よりも高いため、有機太陽電池に応用できることが分かった。現在、同等の電子構造を持ち、edge-on配向を示す分子を探索している。また、β-octakis(dodecyloxy)phthalocyanineの代わりに汎用のドナー材料である、poly(3-hexylthiophene) (P3HT)の配向制御も試みている。来年度は光電子分光による界面電子構造の評価も加えて分子配向と太陽電池特性の関連を精査する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
β-octakis(dodecyloxy)phthalocyanineのスピンコート膜では、分子はedge-on配向するため、face-on配向を実現する方法を探索することが本研究では重要となる。計画当初に思案していた、ドナー材料としても期待できるフタロシアニン液晶の配向を制御するため、(i)等方相からディスコティックカラムナー相に冷却、(ii) (i)をポリビニルフェノール(PVP)犠牲層を併用することを試みた。実際は、β-octakis(dodecyloxy)phthalocyanineの融点が高いため、PVP犠牲層が分解し、face-on配向を示す膜を得ることが困難であった。この点で、初年度では目的を十分に達成することができなかったが、現在P3HTを使った配向制御が可能になりつつある。 一方、分子設計の観点から配向制御を試み、確実にface-on配向を示す新材料を開発できた。A1は可視光領域で強い吸収を持ち、適当な電子構造を有し、銅フタロシアニンやP3HTなどの典型的なドナー材料と組み合わせることで、電子アクセプターとして働くことが分かった。エネルギー変換効率が0.5%とまだ低いが、第一世代のアクセプターとしての素性は良い。A1は分子骨格自体が新しいため、非フラーレン系の新型アクセプターの開発にも貢献できた。最近報告されているドナーポリマーの中で、活性層内でface-on配向を示すものがあるが、A1の構造解析の結果から、分子面に水平方向の相互作用を導入することがface-on配向実現にとって重要であることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、有機薄膜の配向をedge-on配向からface-on配向に変える方法を引き続き模索する。研究代表者は平成25年度より、理研創発機能高分子研究チームに移り、これまでよりも分子配向と太陽電池特性の相関を掘り下げる環境を得た。配向を制御する対象としては汎用ドナーポリマーである、P3HTの配向制御に取り組むことにした。P3HTはラビング法と熱アニールの併用や、CuI膜上に成長させることによりface-on配向をとることが既に知られている。XRD, 紫外-可視吸収分光を併用し、配向制御を検討する。 edge-on、face-on配向のP3HT膜を作製した後、接触転写法(CFT)でアクセプター層に転写し、配向だけが異なる積層型有機太陽電池を作製する。この素子の特性を評価する一方、光電子分光で同積層膜の電子構造を明らかにし、短絡電流密度・開放端電圧と分子配向の関連を探る。さらに、ドナーのHOMOからアクセプターのLUMOへの直接遷移に由来する九州の外部量子効率を分子配向との異なる太陽電池に対して測定することで、分子配向と逆飽和電流密度との関連も明らかにする予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
「現在までの達成度」において述べたように、当初予定していたフタロシアニン液晶の配向制御が困難であったため、研究の遂行に多少遅れが出た。そのため、100,188円の未使用額が出た。次年度では、P3HTの配向制御を行うためにCuI蒸着膜を用いることも予定している。研究代表者は最近、無機材料専用の真空蒸着チャンバーを立ち上げた。2012年度の未使用額は、この真空チャンバーを使って蒸着するための直流電源の購入に充てる予定である。
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