研究課題/領域番号 |
24750190
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
堤 潤也 独立行政法人産業技術総合研究所, フレキシブルエレクトロニクス研究センター, 研究員 (30573141)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 電荷移動励起子 / 電荷移動錯体 / 有機太陽電池 / 光電変換 / 電荷分離 |
研究概要 |
本研究では、有機太陽電池について、電荷移動(CT)励起子を用いた新たな光電変換機能を開発することを目的とし、光電変換に最適な分子化合物半導体材料の探索を行う。分子化合物半導体は、構成分子であるドナーとアクセプターの組み合わせに依存して、分子間で電荷移動した励起状態を示すCT励起系と、分子内に局在した励起状態を示すフレンケル励起系を形成する。本年度は、フレンケル励起系からCT励起系にわたる種々の分子化合物半導体材料について、光電変換のメカニズムをレーザー誘起光電流(LBIC)法により系統的に調べた。まず、分子化合物半導体材料のLBICプロファイルの電場依存性を詳細に調べ、これが電荷キャリアのドリフトを考慮した1次元の拡散モデルによりよく再現できることを見出した。このことから、分子化合物半導体を光励起すると、通常の単一成分系有機半導体でみられるような励起子形成を介さず、電荷キャリアが直接生成することが明らかとなった。次に、LBICプロファイルの減衰幅の解析から電荷キャリアの拡散長を求め、これが、CT励起系とフレンケル励起系の中間に位置する材料で長くなる傾向にあることを見出した。このような傾向について、マーカス理論による考察を行ったところ、CT励起系とフレンケル励起系の中間に位置する材料系では、電荷分離の速度定数が再結合速度定数を大きく上回り、これが長い拡散長を導く要因となっていることが明らかとなった。上記の研究から、分子化合物半導体が電荷キャリアを生成しやすいという有機太陽電池用半導体材料として優れた性質をもつほか、このような性質がCT励起系とフレンケル励起系の中間に位置する材料系で最も強くなることを明らかにすることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度に実施した研究により、分子化合物半導体が電荷キャリアを生成しやすいという有機太陽電池用半導体材料として優れた性質をもつほか、このような性質がCT励起系とフレンケル励起系の中間に位置する材料系で最も強くなることを明らかにすることに成功している。これにより、本研究の目的である、①分子化合物半導体の光電変換のメカニズムを明らかにすること、②光電変換に有利な材料選定指針を見出すこと、をほぼ達成できた。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの研究から、フレンケル励起系からCT励起系にわたる種々の分子化合物半導体について光電変換に有利な材料選定指針を見出すことに成功しており、当初の計画以上に研究が進展している。そこで本年度は、分子化合物半導体についての研究をさらに進めつつ、分子化合物半導体と類似の電子構造を有するドナー・アクセプター(DA)ポリマー型半導体についても光電変換のメカニズムを調べ、ドナーとアクセプターから成る有機半導体の光電変換機構について共通の知見を得ることを試みる。 近年、DAポリマー型半導体が高効率な有機太陽電池(変換効率 > 9%)を与えることが報告され、その高いプロセス適合性もあって世界中で大きく注目されている。しかしながら、DAポリマー型半導体が高い変換効率を示す要因についてはよく分かっておらず、さらなる高効率化に向けて光励起状態の基本的な理解が求められている。そこで、前年度に分子化合物半導体についての研究で得た知見をもとに、励起系の異なる種々のDAポリマー型半導体について、光電変換のメカニズムを系統的に調べる。研究は、レーザー誘起光電流(LBIC)法に加えて、吸収・光電流スペクトル、蛍光寿命などの測定も行って進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
DAポリマー型半導体についての研究を進めるのに必要な、ポリマー試薬の購入、およびLBIC測定装置の高性能化に必要な物品の購入に充てる。
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