リチウム二次電池の電極材料として通常用いられているレアメタル酸化物を,酸化還元活性な低分子性有機物で完全に代替することで,低環境負荷な二次電池を創出できる。本研究代表者は,既にベンゾキノン誘導体が高容量の電極材料として機能することを見出し,報告している。本研究では,有機材料を探索-設計-合成することで,電極材料としての高性能化を目指し,同時に未解明な点も多い充放電メカニズムの解明を目的としている。 独自に見出した有機正極材料であるベンゾキノン誘導体を用いた電池のサイクル特性の改善に取り組んだ。周辺置換基として長さの異なるアルキル基を導入した有機電極材料を合成し,それらを用いた電極の寿命と電極材料の電解液への溶解性を調べたところ,それらの間に相関が見られ,材料の溶解度の低減が電極の長寿命化に対して有効であることを見出した。幾つかの置換基の種類を検討したところ,ある種のイオン性置換基を導入することで,電極材料の溶解性が劇的に低減することを見出し,電極の高容量化と長寿命化の両立する分子設計の糸口を見出した。 長寿命化の別のアプローチを見出すべく,多環構造を有するキノン材料の2量体および3量体を新規に合成-評価した。その結果,電極活性部位のオリゴマー化がサイクル特性の向上に有効であることが明らかとなった。 一方,充放電メカニズムの解明にも着手した。これまでの有機電極材料においては,充放電過程におけるリチウムイオンの関与は想定されてはいたものの証拠は提案されていなかった。本研究では,核磁気共鳴を用いてリチウム核を観測する手法を検討し,リチウムイオンが有機電極の充放電に伴って挿入-脱離している直接的な証拠を世界に先駆けて見出した。
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