研究課題/領域番号 |
24750195
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
酒井 健一 東京理科大学, 総合研究機構, 講師 (20453813)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 界面物性 / 乳化 / 両親媒性物質 / 高分子電解質 |
研究概要 |
本研究課題では、省エネルギー、省資源といった社会的要求に適う乳化物を機能性界面制御剤(AIM)と称する新たな物質概念のもとに調製する。AIMとは「共存する二相にそれぞれ親和性を有するがいずれの相にも実質的に分子溶解することなく、形成された二相の界面に独立した第三相として局在する両親媒性物質」と定義している。すなわちAIMを用いて乳化物を調製すると、AIMは連続相中に分配されることなく界面の安定化にのみ寄与するため、添加量に対して最大限の効率で界面物性を制御することができる。本研究課題ではAIMとして機能する物質の多様性を拡張していくと同時に、その汎用性を高めていくことを目標としており、具体的な方策として、高分子電解質の複合体(ポリイオンコンプレックス:PIC)を活用している。 平成24年度には、キトサンをPIC構成物質の一つとして選択し、陰イオン性の高分子電解質(ポリアクリル酸:PAA)と混合することでPICを調製した。また、調製されたPICの乳化剤としての機能を検討した。その結果、キトサンとPAAを適切な総濃度および組成比により水中で混合すると、PICの分散液を得られることがわかった。また、オレイン酸を油剤として用いると、比較的分散安定性の高い水中油滴型の乳化物を得られることがわかった。このとき、PAA水溶液にオレイン酸を添加した後にキトサン水溶液を加えて乳化すると、乳化物の分散安定性は高くなった。キトサンとPAAの双方に蛍光プローブを化学修飾し、共焦点レーザー顕微鏡法によりこれら高分子の可視化を行った。その結果、系中で調製されたPICが油滴(オレイン酸)の周囲をカプセルのように覆っている様子が観察された。以上の結果から、キトサンとPAAで構成されたPICは油と水の界面に局在し、乳化系の安定化に寄与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
AIMは連続相中に分配されることなく、界面の安定化にのみ寄与する(つまり、最大限の添加効率で界面の性質を制御できる)ことを最大の特長としている。本研究課題の最終的な目標は、省エネルギー、省資源といった社会的要求に適う乳化物をAIMと称する物質概念のもとに調製することである。そのためには、AIMとして機能する物質の多様性を拡張していくと同時に、その汎用性を高めることが求められている。 そのような観点から、平成24年度はキトサンとPAAからなるPICに着目した研究を展開した。「研究実績の概要」で報告した通り、上記のPICは油と水の界面に独立した界面膜を形成し、乳化系を効率的に安定化していることが示唆された。上記のPICを用いると効率的に安定化できる油剤がオレイン酸に限られている点、本系に関する分散安定化の機構が完全には解明されていない点など、いくつかの検討課題は残されているが、本研究課題の目的に適った成果が得られていると考えられる。なお、以上の実施内容と成果は「交付申請書」に記した平成24年度の研究実施計画と一致している。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は主に、キトサンとPAAからなるPICを活用すると、比較的分散安定性の高い乳化物を得られることがわかった。しかし、そのような乳化物はオレイン酸を油剤として用いた場合に限定されていた。そこで平成25年度以降は、安定な乳化系を得られる油剤の種類を増やしていく。そのための方策として、得られた乳化物の物性評価(経時安定性試験、粒子径測定、粘弾性測定等)を系統的に行うことで、分散安定化の機構解明を進めていく。 また、これまでの取り組みはキトサンを陽イオン性の高分子電解質、PAAを陰イオン性の高分子電解質としてきたが、PICを構成する高分子電解質の組み合わせは多様である。例えば、キトサンやPAAに化学的な修飾を施せば水と油への親和性を任意に変化させることが可能であり、PICの界面化学的な物性の変化が乳化物の分散安定性に及ぼす効果を検討できる。また、キトサンやPAA以外の高分子電解質もPICの構成材料として検討していく。以上の取り組み結果を踏まえて、PICの選択と乳化物の調製方法を再検討し、界面物性の制御を最大効率で実現するPICの処方条件と低環境負荷な乳化物調製の手法を提案する。 本研究課題の最終的な目標は、省エネルギー、省資源といった社会的要求に適う乳化物をAIMと称する物質概念のもとに調製することである。PICはそのような目標に合致した材料として提案しているが、PICに限定されることなくAIMとして機能する材料を探索することも将来的には必要である。このような大局的視野にたった検討も進めることで、AIMと称する物質概念の普及と本研究課題の将来的な発展に対する学術的基盤を形成する。
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次年度の研究費の使用計画 |
ポリイオンコンプレックス(PIC)およびPICを用いて調製された乳化物の物性はゼータ電位、光散乱、表面張力、電子顕微鏡、小角X線散乱、粘弾性等の測定により評価する。これらの装置は研究代表者の所属する研究グループ、あるいは大学の共通施設として使用可能な状況にあるが、測定に関わる消耗品類(試薬・器具等)については経費助成されることを希望する。PICを構成する高分子電解質の構造最適化も研究計画に含まれており、これに関係する合成試薬と器具の費用も必要である。本研究課題では機能性界面制御剤(AIM)と称する物質概念の普及も目標に定めており、国内外での学会発表と情報収集を重視している。そのための費用も本研究費で助成されることを希望する。
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