研究課題/領域番号 |
24750195
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
酒井 健一 東京理科大学, 総合研究機構, 講師 (20453813)
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キーワード | 界面物性 / 乳化 / 両親媒性物質 / 高分子電解質 |
研究概要 |
本研究課題では、省エネルギー、省資源といった社会的要求に適う乳化物を機能性界面制御剤(AIM)と称する物質概念のもとで調製している。AIMとは「共存する二相にそれぞれ親和性を有するがいずれの相にも実質的に分子溶解することなく、形成された二相の界面に独立した第三相として局在できる両親媒性物質」と定義している。すなわちAIMを用いて乳化物を調製すると、AIMは連続相中に分配されることなく界面の安定化にのみ寄与するため、添加量に対して最大限の効率で界面物性を制御することができる。本研究課題ではAIMとして機能する物質の多様性を拡張していくと同時に、その汎用性を高めていくことを目標としており、具体的な方策の一つとして、高分子電解質の複合体(ポリイオンコンプレックス:PIC)を活用している。 平成25年度は前年度に引き続き、陽イオン性の高分子電解質(キトサン)と陰イオン性の高分子電解質(ポリアクリル酸:PAA)から成るPICをAIMとして選択し、その乳化特性を検討した。また、これとは別の取り組みとして、両性の高分子電解質であるゼラチンと陰イオン性の高分子電解質であるポリスチレンスルホン酸ナトリウム(PSSNa)でPICを構成させ、その乳化特性も検討した。ゼラチンとPSSNaはしばしばマイクロカプセルを調製する際の殻物質として利用されているが(複合コアセルベーション法)、本研究課題では乳化という観点から系統的な検討を実施した。本年度はさらに、ある種の両性ジェミニ(双子)型両親媒性物質がAIMとして機能し、耐合一性の高い乳化物が調製されることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
AIMは連続相中に分配されることなく、界面の安定化にのみ寄与する(つまり、最大限の添加効率で界面の性質を制御できる)ことを最大の特長としている。本研究課題の最終的な目標は、省エネルギー、省資源といった社会的要求に適う乳化物をAIMと称する物質概念のもとに調製することである。そのためには、AIMとして機能する物質の多様性を拡張していくと同時に、その汎用性を高めることが求められている。 そのような観点から平成25年度は主に、「研究実績の概要」で記した3つの系に着目し、それらの乳化特性を検討した。これらの検討を通じて、AIMによる乳化ではクリーミング(浮遊・沈降)や凝集による不安定化は受けても、液滴間の合一は起こりにくいという統一的な知見を得ることができた。また、油水の界面にAIMが局在することから、調製された乳化物は増粘しにくいという傾向も明らかとなった。AIMによる乳化は粉体乳化(Pickering乳化)、三相乳化、液晶乳化といった既存の現象にも通じる裾野の広い概念であり、本研究課題から得られた知見はこういった現象の系統的な理論整理に資すると考えられる。AIMは水にも油にも実質的に分子溶解しないことを必要条件としているが、このような物質は一般的に取り扱いにくい乳化剤とされている。本研究課題で検討してきた化合物群についても、pHや温度といった因子を調整することで耐合一性の高い乳化物を得ることができた。すなわち、AIMとして着目した材料の特性を把握し、それを適切に活用することで、AIMによる効率的な乳化が達成される。 省エネルギーで乳化物を調製するという観点からは撹拌力の低減化が今後の課題として残されているものの、全般的には本研究課題の目的に適った成果が得られていると考えられる。なお、以上の実施内容と成果は「交付申請書」に記した平成25年度の研究実施計画と一致している。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度までに、PICを利用した2つの系(キトサン-PAAおよびゼラチン-PSSNa)についてその乳化特性を検討してきた。これまでの検討を通じて、PICの濃度や油水の組成比が乳化物の性質に与える効果を明らかにし、PICがAIMとして機能するための処方条件に関する知見を得ることができた。しかし、乳化時に与えるエネルギー(撹拌力)の低減化は現時点において実現できておらず、平成26年度以降の課題として残されている。化学的な微細乳化法としては、転相温度乳化法、反転(転相)乳化法、D相乳化法などが知られているが、AIMという物質概念と組み合わせると、どのような物質選択と乳化法が社会で求められるようになるのか長期的な視点で考察していきたい。 また、平成25年度までにも実施してきたが、PICを構成する各高分子電解質に部分的な疎水化処理を施せば、水と油への親和性を任意に変化させることが可能であり、PICの界面化学的な物性の変化が乳化物の安定性に及ぼす効果を検討できる。 本研究課題の最終的な目標は、省エネルギー、省資源といった社会的要求に適う乳化物をAIMと称する物質概念のもとに調製することである。PICはそのような目標に合致した材料として提案しているが、PICに限定されることなくAIMとして機能する材料を探索することも必要である。その一例が「研究実績の概要」で記した両性のジェミニ型両親媒性物質である。この物質を用いて乳化物を調製する際の重要点は、乳化時および保存時の適切な温度調整であった。平成26年度はこの乳化・安定化機構の詳細な解析を実施する予定である。一連の研究を通じて、AIMと称する物質概念の普及と将来的な発展に対する学術基盤の構築をめざす。
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度からの繰越金および当該年度の交付金をあわせ、慎重な予算執行を行って参りました。次年度への繰越金は、以下に記す使用計画に基づき、適正かつ有効に使用させて頂きます。 ポリイオンコンプレックス(PIC)およびPICを用いて調製された乳化物の物性はゼータ電位、光散乱、界面張力、電子顕微鏡、小角X線散乱、粘弾性等の測定により評価する。これらの装置は研究代表者の所属する研究グループ、あるいは大学の共通施設として使用可能な状況にあるが、測定に関わる消耗品類(試薬・器具等)については経費助成されることを希望する。PICを構成する高分子電解質の構造最適化も研究計画に含まれており、これに関係する合成試薬と器具の費用も必要である。本研究課題では機能性界面制御剤(AIM)と称する物質概念の普及も目標に定めており、国内外での学会発表と情報収集を重視している。そのための費用も本研究費で助成されることを希望する。
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