本研究では、全固体薄膜Liイオン電池の実現のために、高いLiイオン伝導率を示すLiBH4をPulsed lased deposition (PLD)法を用いてエピタキシャル薄膜化することを目指した。ところがLiBH4粉末の焼結体をターゲットに用いた実験で、薄膜成長に必要な原子レベルの蒸発が得られないことが判明したため、本研究にはPLD法は不向きであると判断した。 そこで残りの研究期間では、Liが低融点(180.5℃)を持つことを利用して、液体とガスの反応により薄膜を成長させるVapor-liquid-solid (VLS)法を用いることにした。ただしVLS法による水素化物の薄膜成長例がなかったため、最も単純な水素化物であるLiHのエピタキシャル薄膜成長に取り組んだ。 MgO(100)単結晶基板上にLi薄膜を蒸着した後、100 - 550℃において0.5気圧の水素ガス雰囲気下で2時間水素化を行った。XRD面内φスキャンを行ったところ、Liの融点以上で水素化した試料において、MgO(100)基板と同じ回折角度に4回対称なピークが観察されたことから、LiH薄膜のエピタキシャル成長に成功したことが明らかになった。 LiHエピタキシャル薄膜の成長機構を理解するため、第一原理分子動力学法を用いて結晶化のシミュレーションを行った。その結果、液体Li/MgO界面において、O原子の上にLi原子が配列し、一方でMg原子の上は空隙となる原子レベルの周期構造が、LiHのエピタキシャル成長を開始するうえで重要な役割を果たすことが明らかになった。 以上の結果は、LiBH4のような融点の低いアルカリ金属を含む水素化物一般においてエピタキシャル薄膜成長の指針を与えるだけでなく、基板と薄膜の界面を利用した水素化物エレクトロニクスの創成への道を開いた点でも意義深いものである。
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