研究課題/領域番号 |
24750210
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山添 誠司 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (40510243)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 溶解析出法 / ペロブスカイト / Nb6O19クラスター / 圧電材料 / 低温合成 / 形態制御 |
研究概要 |
H24年度は,溶解析出法を用いたニオブ酸系ペロブスカイトの低温合成の手法の確立と形状制御を行った. 具体的には改良固相法を用いて原料となるNa3NbO4を合成した後,Na3NbO4をpH=7の緩衝溶液に溶解させることでNb6O19ニオブ酸ナノクラスターのイオンを合成した.次に,NaOH水溶液を用いてpHを13以上にすることで針状のニオブ酸ナノクラスターのアルカリ塩(Na7(H3O)Nb6O19・14H2O)が析出した.これを500℃で加熱することで針状のNaNbO3ペロブスカイトを得ることに成功した.重要となるのがNa7(H3O)Nb6O19・14H2O析出過程で,析出条件を制御するとこで形状や組成を制御できると考えた.析出温度により得られる針状形状の形状(アスペクト比)を制御できることを見出した.また,アルカリ水溶液NaOHにKOHを混ぜることで(Na,K)7(H3O)Nb6O19・14H2Oが得られることがわかった.Kの比率が大きくなると得られる化合物が変わり,板状の(Na0.5K0.5)8Nb6O19・9H2Oが得られた.これら得られたアルカリ塩を焼成することでNa/K比と形状を保ったまま(Na,K)NbO3を得ることに成功した. 本研究により,溶解析出法により低温で針状及び板状の(Na,K)NbO3を合成できることを見出した.水に溶解可能で安定なニオブの前駆体は非常に少ないため,湿式法でのニオブ酸系ペロブスカイトの低温合成法の報告は少ない.ましてや,その形状・組成を容易に制御できる報告例は極めて少ない.今回の結果は,ニオブ酸系ペロブスカイト材料の新しい低温合成法として非常に意義深いものであり,材料化学の分野のみならず,触媒・誘電体の分野に貢献できることは間違いない.また,投稿した論文がeditor's choiceに選ばれており,その重要性が認められている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時における本年度の達成目標は,(1)アルカリニオブ酸前駆体の合成と前駆体からのニオブ酸ナノクラスター生成機構の解明,(2)ニオブ酸ナノクラスター析出機構の解明による形状制御,(3)トポタクティック相転移による形状を維持したペロブスカイト材料の合成,の3つの課題である.(1)については,DXAFSを用いた時分割測定により前駆体からのニオブ酸ナノクラスターの生成過程を追跡しており,生成機構を明らかにした.(2)についても,合成機構から重要な過程に焦点を絞り,生成条件を制御することで形状制御に成功しており,予定通りに研究が進んでいる.(3)については,形状を維持したままペロブスカイト構造の材料合成に成功しているが,トポタクティック相転移を引き起こせているかどうかについては今後,研究を進めていく必要がある. 以上より,申請時の研究計画に沿ってほぼ予定通り研究を進められている.
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今後の研究の推進方策 |
H25年度は引き続き溶解析出法を用いたニオブ酸系ペロブスカイトの低温合成の研究を進める.H24年度ではペロブスカイトのAサイトのアルカリ金属の組成制御を行ったが,H25年度ではBサイトの組成制御を行う.特に,NbサイトにTaやSbを固溶させたペロブスカイトの合成を中心に行う.前駆体であるNa3NbO4の合成過程でNb2O5だけでなくTa2O5やSb2O5を混ぜることでNa3(Nb,Ta,Sb)O4を合成し,これを用いた組成制御を行う.特にニオブ酸ナノクラスターへのTaやSbの固溶の有無を質量分析等を用いて詳細に行う.また,ナノクラスターの組成により形状が変化する可能性があるので,この可能性についても調べる.合成した幾つかの試料についてはセラミックスを作成し,配向制御の有無を確認する.
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次年度の研究費の使用計画 |
備品:針状および板状のニオブ酸ナノクラスターのアルカリ塩からペロブスカイトへの相転移の際,トポタクティック相転移を起こす必要がある.通常の焼成法ではこのトポタクティック相転移を引き起こすことが困難であることが予想されるため,高圧下での相転移を行いたいと考えている.そこで,内部がテフロン製の耐圧容器を購入する予定である.価格は50万円である. 消耗品:試料調製のための試薬費,試料合成や物性評価のための器具など必要不可欠な物品の購入に充当する.各年度80万程度必要と見積もられる. 国内旅費:本研究に必要不可欠な放射光施設への研究出張や研究のための研究調査・資料収集,および研究成果を研究代表者が学会で発表するために使用する.20万程度を予定している.
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