研究課題/領域番号 |
24750214
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
大坂 昇 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (80550334)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 動的光散乱 / 偏光解消・保存 / ゲル化 / 結晶化 / 相分離 / 核生成 |
研究概要 |
ポリフッ化ビニリデン(PVDF)/プロピレンカーボネート(PC)溶液のゲル化過程をHv光散乱・Vv光散乱を用いて追跡した。140℃から30℃への降温過程において、Vv光散乱の積分強度が高温側で優先的に増加することが観測された。これは密度揺らぎが結晶化よりも優先的に出現したことを意味しており、結晶化よりも密度揺らぎが球状ドメインの形成に重要なことが示唆される。また、140℃から様々な温度へ温度ジャンプした際のVv光散乱のプロファイルを調べると、スピノーダル分解に特徴的な散乱ピークの出現は観測されなかった。各波数ベクトルにおける散乱強度の時間発展を調べると、時間の4乗に比例して増加した。これらの結果より、PVDF/PC系で出現した密度揺らぎはスピノーダル分解型ではなく核生成型であることが示唆される。さらに、各温度での球状ドメインの形成過程を顕微鏡を用いて観察した。その結果、球状ドメインの大きさは時間に比例して増大することが明らかになった。時間に比例したドメインの成長過程は高分子の結晶などで観察されており、界面律速型の成長機構であることが知られている。以上より、PVDF/PC系に見られた球状ドメインの特異な粗大化過程は界面律速型の成長機構であることが示唆される。 一方、得られたゲルは力学的に非常に脆い。結晶性高分子においては、分子内または分子間に存在する絡み合いが高分子鎖の完全な結晶化を阻害する。そのため、熱処理を行い、高分子鎖により安定な結晶構造を形成させることで力学強度の向上を行った。融点近傍で1時間熱処理を行うと、破断応力が4倍、破断歪みが約2倍と大きく増加した。融点直下で熱処理を行うと、高分子鎖の分子運動性が増加し、結晶の部分融解の後、結晶構造がより安定な構造へと再結晶化・再秩序化したものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
結晶性高分子電解質ゲルのnmからμmまでの階層的な高次構造形成を解明するための偏光保存・解消動的光散乱装置は、土台となるゴニオシステムを確立し、ALV社製のマルチプルタウコリレータを購入した段階になり、装置の開発はおおむね順調に進展している。μmスケールの構造形成に関しては静的光散乱、顕微鏡観察を用いて昨年度実施した。得られた結果はPVDF/PC溶液のゲル化過程における結晶化と相分離の競合過程を理解する上で非常に重要なものであった。また、この結果は今後の動的光散乱の結果を理解するうえでも非常に有用になると期待できる。 さらに、上記のゲル化過程の解明の結果を発展させ、力学物性においてもPVDF/PCゲルの特異な挙動を明らかにしている。特に、融点近傍で熱処理を行うことで、力学強度が大幅に増加することを見出しており、PVDF/PCゲルの特異な構造、物性に関しての理解が順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
偏光保存・解消動的光散乱装置を完成させ、PVDF/PCゲルのnmからμmまでの階層的な高次構造形成を詳細に解明する。次年度には、従来よりも量子効率に優れたアバランシェフォトダイオードの購入が可能になり、ゲル化前の溶液状態においても、優れた統計データの取得が可能になる。これにより、ゲル化温度や濃度、溶媒に依存した(i)ゲル化前における網目クラスターや結晶の成長、(ii)ゲル化点の決定や網目鎖密度、(iii)ゲル化後の網目サイズ、及び網目や結晶の構造不均一性を明らかにする。 また、時分割FT-IRと広角・小角X線散乱の測定を行い、高分子間及び高分子と溶媒との相互作用に着目した数Å~数十nmに及ぶ微細構造変化の詳細を明らかにする。この結果を上記の結果と併せることで、階層的なゲル化機構を包括的に理解する。 さらに、リチウム塩添加による高分子鎖のコンフォメーション変化に依存したゲル化機構の解明を行う。得られた結晶や網目サイズ及びゲル中の構造不均一性とイオン伝導度との関係を明らかにし、イオン伝導度向上に重要な構造因子を求める。
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次年度の研究費の使用計画 |
偏光保存・解消動的光散乱装置を完成させるために、従来よりも量子効率に優れたアバランシェフォトダイオードを購入する。昨年度は予定していた検出器が在庫切れのために入手することができなかったが、より量子効率の高い検出器が購入可能となったため、そちらの検出器を購入する。また、既に購入した石英製のキュベットは厚みが想定よりも大きくばらつきもあり、レーザー強度の低下やノイズの発生源になっており、こちらもより薄く、厚みや表面の均一性が高いものを購入する予定である。さらに、バックグラウンドの除去や温度安定性を高めるため、温度調節精度の高い恒温水循環装置を購入する予定である。
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