結晶性高分子であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)と有機溶媒であるプロピレンカーボネート(PC)との混合溶液を試料とした。PVDF/PCゲルは球状ドメインの連結したゲル構造を形成するが、この特異な高次構造が相分離由来か、結晶化由来であるのかを解明するため、Hv・Vv光散乱実験を行った。溶解状態の140℃からゲル化温度よりも十分に低い30℃への降温過程において、Vv光散乱の積分強度がHv光散乱の積分強度よりも高温側で優先的に増加することが見出された。これは、結晶化よりも密度揺らぎが優先的に出現したことを示唆しており、球状ドメインの形成に結晶化よりも密度揺らぎが重要であることを示唆している。また、温度ジャンプ実験を行ってVv光散乱の散乱プロファイルを調べると、スピノーダル分解に特徴的なピークは出現しなかった。さらに、各波数において、散乱強度の時間変化を調べると、散乱強度は時間の4乗に比例して増加した。以上の結果は、PVDF/PC溶液のゲル化過程で観測された密度揺らぎが核生成型の密度揺らぎであることを示唆している。また、顕微鏡を用いて球状ドメインのサイズ変化を調べると、球状ドメインの半径は時間の1乗に比例して増加しており、球状ドメインの粗大化過程が界面律速型であることを示唆している。本研究の主目的である動的光散乱を用いた、nmスケールからμmスケールに及ぶ階層的なゲル化過程の解明には、当初予定していた検出器の製造中止や機種選定、納期の遅れなどが重なり、本研究機関内に達成することはできなかった。しかし、ゲル化温度を制御したゲル化過程の研究から、ゲル化温度が増加するほど弾性率と破断強度、破断歪みが共に向上する、という力学物性に関するこれまでにない知見を確立してきており、結晶性高分子ゲルの基礎研究を多面的に展開することができた。
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