研究課題/領域番号 |
24750216
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
源明 誠 富山大学, その他の研究科, 助教 (70334711)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 高分子機能材料 / 生体適合性 / 表面の水 |
研究概要 |
生体適合性が要求される医用高分子材料の開発は,動物実験や人体による評価に合わせ,種々の株化細胞や人血による評価が不可欠であり,長い期間と多くの資金が必要とされる.研究初期から生細胞による評価が必要なのは,当該分野の問題の一つである生体適合材料の物理化学特徴(生体適合性の発現機序)を見いだせていないことが,最大の要因である.本申請研究は,迅速かつ安価に評価可能な物理化学的手法を軸とした"生物学的実験を伴わない生体適合材料の評価法"の確立を目指している. 初年度は,固体表面上に吸着したタンパク質の分子レベルでの構造を評価できるシステムを構築した.具体的には,内部全反射赤外分光法を適用し,タンパク質すなわちポリペプチド主鎖骨格であるアミド基のアミドIおよびアミドIIバンドの赤外吸収スペクトルの評価から,吸着タンパク質と遊離タンパク質の2次構造の違いを明らかにした.さらに,固体表面の種々の官能基,具体的には,アミノ基,メチル基,ビニル基,フェニル基,チオール基およびシラノール基表面に吸着したタンパク質の構造を比較し,親水(水液滴接触角の小さい)表面では,吸着タンパク質の構造変化が,疎水表面上におけるそれよりも遅く進行することが分かった.しかしながら,48時間以上では,双方の吸着タンパク質の構造に違いは見られなかった. 固体表界面の~100 nm領域の水の構造を評価するために,内部全反射近赤外分光システムを構築した.入射角35-65度(5度刻み)の内部全反射結晶(シリコン製)を自作し,シラノール基表界面の水の近赤外スペクトルを取得した.入射角度が大きくなる,すなわち,表界面からの測定領域が小さくなるに従い,水分子由来の吸収シグナルが強くなり,表界面で水分子が濃縮あるいはバルク中とは異なる水素結合ネットワーク構造を有していることが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請研究は,材料の生体適合性すなわち細胞の接着挙動を,物理化学的知見から予測することを目指しているが,細胞は,必ず材料表面上の吸着タンパク質を介して接着する.これまでに,材料表面のタンパク質の2次構造を明らかにする基本的な手法は構築済であり,当初設定した計画通りに進行している.赤外分光法では,水(軽水)の吸収とタンパク質の吸収が重なっていることから,本年度は,重水を用いた実験系で,システムの最適化を行うことができた.一方,表界面の水は,タンパク質の接着の際に必然的に脱水和されることから,表界面の水の構造,すなわち水の物理化学的特性を明らかにすることは,タンパク質の接着,それに続く細胞接着の挙動を推測するうえで,重要な知見を与えると期待される.これまでに,いままでほとんど試みられていなかった近赤外領域における内部全反射分光による水のスペクトルの取得を可能にしており,当初の計画通りに進んでいる.
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今後の研究の推進方策 |
これまでに,固体表界面の吸着タンパク質の構造解析手法および表界面の水の分光測定を確立した.今後は,様々な固体表面への細胞,特に繊維芽細胞の接着挙動および吸着タンパク質量を定量し,吸着タンパク質の構造および表界面の水の構造と,生体適合性すなわち材料への生体由来物質の接着・吸着特性との相関を検討する.また,タンパク質吸着を誘起しない表面について,当該表界面の水の構造を,本年度構築した分光システムを用いて評価し,零吸着表面と水の構造との相関を明らかにする.零吸着表面は,双性イオン高分子あるいはベタイン高分子の,化学修飾あるいは物理吸着により構築する.これまでの知見から,双性イオン(あるいはベタイン)高分子であることが,必ずしも零吸着表面を実現しないこと,また,細胞接着においては,初期接着で同等の接着抑制を示す双性イオン(あるいはベタイン)材料であっても,培養時間によって異なる挙動を示すものがあることを示している.次年度においては,これらのことを踏まえ評価し,本研究の目的を達成する.
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次年度の研究費の使用計画 |
固体基板,具体的にはシリコン基板およびガラス基板の化学的あるいは物理的修飾を行うために必要なガラス器具,攪拌機,実験スタンド等,化学実験に必要最低限の器具を購入する.また,新規機能材料の合成に必要な薬品類,化学合成に最低限必要なエバポレーター,チラ-,ポンプ等,を購入する.
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